マインドセット マインドフルネス 書評

【要約・書評】リフレクションの技術

リフレクション(内省)の本について、実は、ある不満を抱いていました。
「最前線でしのぎを削るビジネスパーソン、かつリフレクションの専門家が書いた本がない」と。

リフレクションの専門家が書いた本だと、「うーん、理論とかわかったけど、毎日忙しいなかで、本当にやれんの、それ?」と思ったり。
専門家じゃないビジネスの成功者的な人が書いた本だと、「1日1行日記ね。確かに良さそう。でも、1日1行だけ振り返って成功したのって、あなただったからでは?凡人の私がそれやっても、同じような結果を得られるかしら」と思ったり。

専門家が書いた本には具体的ハウツーを、実践家が書いた本には理論的な背景を、それぞれ求めてしまう。
そんな、ないものねだりをしてしまうワガママな読者が、わたくしでございます。

しかし、今回、理論的な知見と実践的ノウハウを掛け合わせたチート級の本が出版されました。
「自分の可能性」を広げる リフレクションの技術』です。

『「自分の可能性」を広げる リフレクションの技術』とは?

本書は、日本IBMの落ちこぼれ社員から米IBM本社のグローバル・リーダーへ自己変革を遂げた西原 大貴氏の本です。
日本支社からアメリカ本社のリーダーに登り詰める。これは、想像をはるかに絶するくらい偉大なことです。

そして、アメリカ本社のリーダーになるにあたり、筆者にとって欠かせなかったもの。それが「リフレクションの技術」です。

しかもこの技術、筆者が認知科学や最先端のコーチング理論を学んだうえで、仏教哲学や自身の実践知も織り交ぜて形作られています。
まさに、理論と実践が掛け合わさった、最強のリフレクションツールといえるでしょう。

リフレクションとは、「自分の可能性」を知り、今日1日をどう生きるかを考えること

本書によると、リフレクションについて次のように定義されていました。

リフレクション=「自分の可能性」を知り、今日1日をどう生きるかを考えること

未来の自分のありたい姿を見据えつつも、今この瞬間に焦点があたっている。
大事なのは、あくまで「今この瞬間」である。
これは、マインドフルネスの「今ここに集中する」という考え方にも通ずるものがあります。

筆者によると、リフレクションは次の3要素から成り立っているそうです。

  1. 心から望む
    やらされ仕事から自由になり、大切なことは1つも犠牲にしない
    未来→現在→過去の順に影響を受けることを心得る
  2. 今を生きる
    自分の無意識を意識的に観察する
    心から望む自分らしさと照らして、ポジティブな可能性を視る
    よく寝て、よく笑う
  3. 自分と仲間の可能性をつなぐ
    独りよがりにならず、仲間との成果につながる行動を選ぶ
    ご縁に気づいてネットワークを築く

いずれも、自分と向き合うときに重要になる、本質的なポイントです。

リフレクションで、仲間との関係に目を向けるのはなぜか?

ここで1つ疑問に思ったことがあります。
リフレクションの3要素の1つに「自分と仲間の可能性をつなぐ」が入っていたことです。

リフレクションとは、自分の内面と向き合うもののはず。
なのに、なぜ、自分の外面、つまり「他人」に目を向けなくてはならないのか?

私が思うに、次の2つの理由があるように思います。

第一に、人間が1人で成し遂げられることには限界があるから。
自分が掲げたVisionを達成するためには、他者の協力が欠かせない。であれば、必然的に、他人との関係性を踏まえたうえで、自らの行いを振り返るべきです。

第二に、人間の存在は「他者との関係」が前提になっているから。
古代ギリシャの哲学者アリストテレスも「人間は社会的動物である」という言葉を残しています。
他者の存在を鏡にして、自分が望むものを明らかにする。こういう考え方が、リフレクションには不可欠なのかもしれません。

そういえば、他者を鏡に、自分が大切にしている価値観に気づかされたことがあります。
業務改革を全社で進めるプロジェクトをリードしていたときの話です。
カウンターパートでやりとりをしている営業チームのリーダーであるAさんに、業務の刷新案を提案しに行ったときの話です。
綿密なロジックを組み立てた(つもり)の資料を説明しながら、いくつか考えうるオプションを提示しました。
しかし、私が説明を終えるや否や、その営業リーダーのAさんは一言「全然違う。あなたは、私たちの仕事をやったことないから、わからないんだ」と一蹴してきました。特に周りも反論を言ったり、私をフォローしたりもなく、全員がAさんの話に耳を傾けていました。

このとき、何か自分の中でプツンと切れてしまった瞬間がありました。
「私たちの仕事をやったことないから、わからない」その一言だけは、言っちゃダメだろと。
であれば、僕のほうから「いやいや、業務のあるべき姿を描いて、そのためのシステム案を定義して実装するなんて、あなたやったことないから、わかんないでしょ」という暴論が成立してしまうことになる。
いや、ビジネスの場面において、こんな暴論は成り立っていはいけない。
きちんと、理路整然とロジカルに議論をして、白黒決着をつけるべきである。
・・・このような怒りがふつふつとこみ上げてきました。
その会議で、私は仕事の時間で初めてキレることになります。今振り返ると、大変未熟でお恥ずかしい限りですが。

で、なぜこの話をしたかというと、他人を映し鏡に、自分の本当の価値観に気づけるのだと、お伝えしたかったからです。

会議中に相手から一方的な感情論を展開されたときに、なぜ私は怒ってしまったのか?
それは、「Aさんが、自分にないものを持っていたから。その嫉妬があったから」です。
私にないもの、それは「感情論でもいいから、物事を推し進める力」です。
私はこれまで「あらゆる意思決定はロジカルになされるべきである」という信念のもと、文字通りあらゆる会議体において、ロジカルに考え抜いた案を持っていっていました。
しかし、これは裏を返すと「ロジックなしで、相手を動かす自信がなかったから」ともいえます。
ロジカルに説得しようと、エモーショナルに説得しようと、極端な話「目的に沿って、相手を意図通りに動かす」ことができれば、別に手段はなんでもOKなわけです。
私が怒ってしまったのは、Aさんに嫉妬したからです。「Aさんは、感情論でNO!という意思決定をいとも簡単にしてしまえる。しかし、私にはそんなことはできない。そんなスキルも勇気もない。
会議が終わったあとになったら、みんなは私に対して「今のAさん、あり得ないよね。ほんとお疲れ様」と声をかけてはくれるものの、会議の場ではそんな反論はしない。
本当にムカつく限りですが、でも、感情論だけで、そのように周りに絶大な影響を及ぼすことができる。
そのAさんの姿に私は嫉妬してしまった。
・・・と、こんなことを振り返ってしまいました。

最後は、何だか、私の感情を吐き出して終わってしまったのですが、己の根幹をさらけ出したくなるようなパワーを、本書『「自分の可能性」を広げる リフレクションの技術』は秘めています。

  • この記事を書いた人

Yusuke Motoyama

外資系コンサルティング会社を経て、経営大学院に勤務。年間300冊読むなかで、絶対にオススメできる本だけを厳選して紹介します。著書『投資としての読書』。 Books&Apps(https://blog.tinect.jp/)にもたまに寄稿しています。Amazonアソシエイトプログラム参加中。 執筆など仕事のご依頼は、問い合わせフォームにてご連絡ください。

-マインドセット, マインドフルネス, 書評

© 2024 BIZPERA(ビズペラ)-ビジネス書評はペライチで