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【要約・書評】コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル

かつてのコンサルティングファームは、一種の「精神と時の部屋」だったかと思います。(このたとえも古い?)
「コンサルでの1年間は、事業会社の5年間に匹敵する」という都市伝説は半分は当たっていて。
毎日16時間とか働いて、接するクライアントもミドルマネジメント以上がデフォルト。
そういう環境で過ごせば、そりゃ濃密な経験を嫌でも積むことができます。
私がコンサル界に足を踏み入れた2016年は、ギリギリそんな経験をさせてもらえる環境だったかなと。

しかし、現在のコンサル界は、だんだんと「精神と時の部屋感」が無くなっているようで。
まず、私が社会人になった2016年頃といえば、某大企業での過労による自殺が注目されていた時期でもありました。
このタイミングから、働き方改革が大きく前進するようになったのを、肌で感じたのを覚えています。

また、2020年のコロナ禍をきっかけにリモートワークが広まり、先輩コンサルの暗黙知を背中で学べる機会も大きく減りました。
デスクの真後ろに先輩が立って「おい、今マウス使っただろ?」とリアルタイムで指摘してくれたり、
10分くらい手を止めていると「おい、手を止まってるぞ。脊髄で仕事するな、考えろ」と𠮟咤激励してくれたり。
リアルで席を隣にするからこそ学べる場面が減りました。

・・・しかし、この状況に問題意識を抱いた方が、コンサルの修業期間に学べる暗黙知を見事に言語化してくれた本があります。
それが、今回ご紹介する『コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル』です。

『コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル』

本書は、筆者が外資系コンサル会社にてアナリストからシニアマネージャーまで経験した中で学んだことを「業界内サバイバルマニュアル」としてまとめた本です。
元々は部下である1人のスタッフに向けて書かれた文書、それが今回、書籍化されているそうで。

当初、この文書は私が勤務していたコンサルティング会社を退職することを決意した際に、最後の部下となった一人のスタッフに向けて書いたものだ。前職では芸能関係の仕事をしていた彼女は、コンサルティングという仕事が一体どのようなものであるのか、ほぼ何も理解していなかった。私が上司として彼女をスーパーバイズできる時間が3か月を切っている中、部下がこの業界で働いていく上での道標を残せないかと考えて、マニュアル化に着手したのがキッカケだ。

『コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル』p6より

冒頭に述べたような問題意識も相まって、コンサル業界でのサバイバルマニュアルが丁寧に丁寧に書かれていました。

コンサル業界ではざっくり、新卒1年目のアナリストから、営業やプロジェクト管理を行うマネジャー、そしてコンサル会社の経営を担うパートナーといった職階が設けられています。
この職階ごとに「最低限できなければいけないこと」が定められています。

本書は、

  • コンサルの各職階ごとに、実際に筆者がぶち当たった壁は何か?
  • それらの壁を、試行錯誤しながらどう乗り越えたのか?そのときはどんな精神状態だったのか?

こういったことが、非常に生々しく描写されています。

もはやノンフィクション小説として成立するくらい、シンプルに読み物として面白い。
そして気づいたら、筆者のコンサル時代の経験を追体験している。そんな本でした。

同じ「コンサル×小説ぽい本」でいうと、三枝氏の『戦略プロフェッショナル』がありますが、この本は「コンサルタントがどのように戦略を作り、現場に落とし込んでいくか」が現場感あふれる感じで描写されています。

一方で、今回の『コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル』は、プロジェクトを回していくうえで、どの職階の人はどんなことに悩みがちか、目先の業務のイメージが湧くレベルで描かれています。

どちらもセットで読んでおくと、コンサルタントとして働く姿が「頭の中で動画が流れるレベル」でイメージできるでしょう。

学び:情報を可能な限りオープンにする大切さ

本書を読んでいて終始頷きが止まらなかったのですが、特に完全同意だったのが「情報は可能な限りオープンに」のパート。

TeamsやSlackといったツールは、フラットな情報共有の場としてとても有効だ。メールによる情報の共有は宛先を自分で指定する際に、この情報を必要としている人間を無意識に識別してしまう。チームメンバーAには関係なさそうな情報でも、Aはその情報を知ることで、より他のメンバーの意図を汲み取った動きが可能になるかもしれない。そうした可能性をメールコミュニケーションは知らず知らずのうちに摘み取ってしまう。

情報を正しく与えれば、メンバーは自分で考え、行動できるという性善説に立ち、誰でもアクセスできる公開チャネルのような場所に議事をタイムリーにシェアし、そのフィードバックをメンバーからもらうようなコミュニケーションのあり方をおすすめしたい。これはフラットでオープンなチーム運営のコツだ。

『コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル』p288より

これは本当にそうだなと。
「オープンでフラットな組織」を目指すのであれば、社内コミュニケーションのツールはチャットを使ったほうがいい。
では、オープンでフラットな(かつ、最低限の統制が取れた)コミュニケーションを行うには、どういう要件を満たす必要があるか?
私は3つあると考えます。

  1. オープンであること
  2. リアルタイムで気軽にラリーできること
  3. 重要度×緊急度が一目でわかること

①オープンであること

情報をオープンにすると、大きく3つのメリットが生まれます。

第一に、普段のやりとりや議論をオープンにして、なるべく多くのメンバーに意思決定に参画してもらうと、意思決定事項に対して、関係者の当事者意識が芽生えやすくなります。

第二に、コミュニケーションをオープンにすると、組織内の情報格差が最小化されて、メンバーが自発的に動きやすくなります。
というのも、メールのコミュニケーションだとどうしても、情報のハブとなる人(ミドルマネジャーなど)が、然るべき対象者を選んでメールをする・・・といった1対Nのやりとりになりがち。この1対Nのやりとりを放置しておくと、ハブになっているミドルマネジャーや上層部に情報が集まり、上層部とメンバー間の情報格差が拡大するばかり。
そんな中で「部下からの提案が全然上がってこないんだよね。もっと当事者意識を持ってほしいわ」と偉い人が嘆いている・・・というギャグみたいな現場を何度も見てきました。

第三に、情報をオープンにしたときの副次的効果があります。それは、より丁寧なコミュニケーションになる点です。
SlackやTeamsのPublic(誰からも閲覧可能)なチャンネルの投稿は、検索すれば誰でも見ることができます。
この「誰かから常に見られている」というちょっとしたプレッシャーが大事です。
なぜならば「誰が見ても、わかりやすい文章を書こう」「雑な依頼を書いちゃだめだ」と思えるから。

以上のメリットもあって、人事などのセンシティブなコミュニケーション以外は、極力オープンにすべきでしょう。

②リアルタイムで気軽にラリーできること

フラットな組織にするためには、何か疑問点があったとき、仕事の依頼をするとき、相談があるときに、気軽にやりとりし合えることが重要です。
この「気軽さ」の設計がキモでして。

どうしてもメールだと、「お疲れ様です。XXです。…と毎回書かなきゃ」「返信がなく読んでくれたかわからない」といったストレスがあります。
このストレスの積み重ねが、コミュニケーションを非生産的なものにします。

「いやいや、お疲れ様です。XXです。…なんて書かなくていいよ」と思う人もいるでしょうが、こういうの気にする人がまだまだ多いんですよ。
それに、「お疲れ様です。XXです。」と書かずに送ったメールに「お疲れ様です。XXです。」と書いたものが返ってくると「あ、やっぱ、お疲れ様です。XXです。…って書かなきゃダメなんだな」と思ってしまうものです。

あと個人的に思うメールの最大のストレスは、「読んでくれたかわからない問題」ですね。
特に大人数に送ったメールに返信が1件もないと「本当に読んでくれたかな?」と不安になります。
それにメールを受け取ったほうも、確認したことを知らせるために、いちいち「お疲れ様です。XXです。下記の件、承知いたしました」と毎回打たないといけない。これまた面倒くさい。
SlackやTeamsであれば、「読んだらスタンプ押してね」とか言って投稿しておけば、読み手もスタンプ1つでリアクションできます。

・・・これでもまだ、メールを使いますか?

③重要度×緊急度が一目でわかること

オープンでフラットなコミュニケーションを・・・とはいえ、最低限の秩序は必要です。
主には、SlackやTeamsの「メンションの使い方」が大事です。

例えばSlackの場合、以下の種類のメンションがあります。

  1. 個人名メンション(例@yusuke.motoyama):特定の個人にのみ通知が飛ぶもの
  2. @here:チャンネル内のオンラインの人全員に通知が飛ぶもの
  3. @channel:チャンネル内の人であれば、オンライン/オフライン問わず通知が飛ぶもの
  4. メンションなし:通知は飛ばず、チャンネルに「未読バッチ」だけつくもの

例えば、3つ目の@channelを使用すると、お休み中の人にも通知が飛びます。つまり「あなたが勤務中か休みかは知らんけど、今すぐ確認してリアクションしなさい」くらいのニュアンスなわけです。

このニュアンスを知らずに、思考停止して@channelを乱発しているとどうなるでしょうか。

  • 「わ、通知が来た。急いでみなきゃ。ん、なんだ、大した連絡じゃないじゃないか」という反応が積み重なり
  • 次第に@channelの投稿が来ても「大した連絡ではない」とみなされ、このメンションがついた投稿が軽視されるようになります
  • すると、本来@channelを使うべきとき(例えば、緊急のトラブルが発生したとき)に@channelを使っても、読み手のアテンションを引き付けることができず、トラブルへの対応が遅れてしまうかもしれません

メンションの種類が分かれているのも、上に述べたような意図が込められているわけです。
こういった意図をきちんと理解して、コミュニケーションの緊急度×重要度がわかるようにやりとりする。
これが、オープンでフラットな組織を混沌とさせないための注意事項です。

以上、最後は私の持論を展開する場になってしまったので、話を戻しましょう。
コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル』、めっちゃくちゃオススメです。

  • この記事を書いた人

Yusuke Motoyama

外資系コンサルティング会社を経て、経営大学院に勤務。年間300冊読むなかで、絶対にオススメできる本だけを厳選して紹介します。著書『投資としての読書』。 Books&Apps(https://blog.tinect.jp/)にもたまに寄稿しています。Amazonアソシエイトプログラム参加中。 執筆など仕事のご依頼は、問い合わせフォームにてご連絡ください。

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