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書評『アナタはなぜチェックリストを使わないのか?』

「ミスを減らすために、チェックリストを導入しましょう」

社会人生活のなかで、少なくとも一度は聞いたことある台詞じゃないでしょうか。


ミスが起こるたびに、「チェックリストを作りましょう」と掛け声が飛び交う。

そして気づけば、チェックリストが山ほどできあがる。これじゃ、全部チェックしてたら日が暮れてしまう。

そうすると次は、「チェックリストをチェックする効率化(手抜き)」をし始める。

例えば、Webページを作るときのチェックリストに「新しくWebページを作ったあとは、必ずPCとスマホ両方でチェックする」と書いてあったとする。

そしたら、作ったWebページをPCとスマホ両方で開いてはみたものの、ロクに読まずに「まあ、大丈夫っしょ」と、チェックしたことにする。

その結果、しばらくすると、また同じミスが発生。

そしてチェックリストが、さらに重厚長大なものへと進化していく。


・・・ここまで酷くないにしろ、似たような話を見聞きしたことはないでしょうか。


じゃあ「チェックリストは無駄か?」と問われると、必ずしもそうではありません。

コンサルタント時代に、「いい資料を作るためのチェックリスト」がありましたが、これが恐ろしいほど機能してまして。

チェックリスト自体は「え、これだけ?」と思うくらいシンプルなのですが、これが想像以上にツボを押さえたものでした。

このチェックリストのおかげで、新人が上司にレビューを受ける時間が大幅に短縮されていました。


では、「機能するチェックリスト」と「機能しないチェックリスト」の違いは、いったい何なのか?

この問いに答えをくれるのが、今回ご紹介する『アナタはなぜチェックリストを使わないのか?』です。

『アナタはなぜチェックリストを使わないのか?』とは

本書は、ハーバード大学医科大学院及び公衆衛生大学院の準教授によって書かれました。

ミスが絶対に許されない医療現場において、チェックリスト導入をリードされていただけあって、まさに「チェックリストのプロ」と呼ぶに相応しい方が書かれています。

なぜミスが起こるのか?

チェックリストを語るにあたって、避けては通れないのが「ミス」です。

なぜ、ミスが起きてしまうのか?

本書では、次のように整理されていました。

  • ミスが起こる原因は「そもそも人間がどう頑張っても不可能なもの=無理」と「本来は人間ができるはずのもの」に分けられる。
  • 後者はさらに、「知っていればできたはずのもの=無知が原因のもの」と「知っていてもできないもの=無能が原因のもの」がある。

そしてチェックリストは、「無能」をカバーするのに、うってつけのツールなんですね。

無能とは、知っていてもできないこと。

例えば、「システムの入力手順」は、マニュアルを読めばわかるはずです。

それにも関わらず、人はシステムの入力ミスをしてしまう。

こういうミスを「無能によるミス」だと本書では定義しています。


ではどうすれば、無能によるミスを防げるのでしょうか?

ミスを効果的に防ぐ「良いチェックリスト」とは、どういうものなのでしょうか?

チェックリストにも、チェックリストがある

ここが本書を読んで一番収穫のあった部分なのですが・・・

どうやら「良いチェックリストの条件」があるそうです。

その名も「チェックリストのチェックリスト」。

中でも、私が個人的に「絶対に覚えておきたい」と思ったポイントを抜粋しておきます。

  1. チェックリストの目的がシンプルに定義されている(「ありきたりの言葉」や「意味のわからない曖昧な言葉」ではなく)
  2. チームメンバーにもチェックリスト作りのプロセスに参加してもらう
  3. 実世界で1回以上試用したうえで、現場に導入する
  4. 「行動のち確認」なのか「読んだのち行動」なのかをクリアにしておく
  5. 文章はシンプルかつ具体的に表現する
  6. チェックリストは5-9項目まで
  7. チェックリストを見直し、改定する計画を立てる(作りっぱなしにしない)

以上の7つを守るだけでも、チェックリストの品質が爆上がりするのではないでしょうか。

これらをグラフィックな感じで、以下の図にも書いてみましたので、ぜひ保存版としてご活用いただけますと、嬉しく思います。

思考停止して「確認」という言葉を使わないこと

本書を読んで思ったのが「確認」という言葉の意味合いについてです。

いろんな仕事の現場を見ていると、あまり考えずに「確認」という言葉を使っている人を一定数お見かけします。

「確認をお願いします」の正しい使い方

例えば、

「この資料の確認をお願いします」

「このメールの確認をお願いします」

「機能を作ってみましたので、確認をお願いします」

からの

「はい、確認しました」

というやりとり。


これ、本当に意思疎通できているのでしょうか?

「この資料の確認をお願いします」

と言われて、本当に正しく「確認」できますか?

私なら、できる自信はありません。


「確認」というのは、

  1. あるべき姿と照らしたときに
  2. 足りていない部分がないかを確認すること

だと思います。

であれば、「あるべき姿がどういう状態か?」という情報がないと、確認なんてものはできないはずなんです。


ですので、私であれば

「この資料の確認をお願いします」

などとは言わず、せめて

  • この資料は、A部長に〇〇の承認を得るためのものです
  • ○○の承認をするにあたって、特に「ROIの算出」のロジックについて違和感ないか、B課長の視点でアドバイスいただけないでしょうか?

と書く努力くらいはします。

このほうが、確認する側も楽じゃないでしょうか。

チェックリストに、ただ「確認する」と書いてはダメ

あるいは、チェックリストに、ただ「確認する」と書いてあるだけ…

そんなケースを見かけます。

例えば、メルマガを送るときのチェックリストに「メールを送信する前に、PCとスマホ両方で確認する」と書いてあったとしましょう。

このときの「確認する」とは、どんな行動を意味しているのでしょうか?


人によっては「PCでもスマホでも、メールが”送信されていること"を確認する」と解釈しているかもしれません。

あるいは「PCでもスマホでも、"メールの文面をスラスラ読めること"を確認する」と捉える人もいるかも。

それくらい「確認する」は曖昧なキーワードなんです。


ですので、チェックリストでは必ず「何がどうなっていることを確認するのか」を確実に明記したいものです。


以上、 『アナタはなぜチェックリストを使わないのか?』 で学んだことをツラツラと綴ってみました。

おやすみなさい。

  • この記事を書いた人

Yusuke Motoyama

外資系コンサルティング会社を経て、経営大学院に勤務。年間300冊読むなかで、絶対にオススメできる本だけを厳選して紹介します。著書『投資としての読書』。 Books&Apps(https://blog.tinect.jp/)にもたまに寄稿しています。Amazonアソシエイトプログラム参加中。 執筆など仕事のご依頼は、問い合わせフォームにてご連絡ください。

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