スキルセット 書く 番外編

「議事録を書く文化」を浸透させるのは、想像以上に難しい。

(画像引用:https://pixabay.com/ja/photos/)

社会人になって、少なくとも2日に1回以上、しかもいろいろな企業の現場で議事録を書き続けた。

そのなかで、今更ながら「当たり前なこと」に気づかされたので、ここに備忘録がてら記しておきたい。


私は心から「議事録」は大切なものだと信じている。

そして、どんな組織で働くにしろ、「議事録を書く文化を浸透させたい」とも思っている。

ただ、「議事録を書くのは大事」と多くの人が思っているのにも関わらず、いざ会議となると、議事録を書いている人は意外なほど少ない。

中には、全社で「議事録を書きましょう」とルールが定まっている企業ですら、現場の会議では議事録が書かれていないことも。

あるいは、議事録は書いてはあるが、全く機能していないケースもある。

・・・なぜ大事だとみんながわかっているのに、「議事録を書く・機能させる文化」を浸透させるのは難しいのか?

この論点について、今日は考えてみたい。


・・・と、本題に入る前に。

人によっては「たかが議事録でしょ」「なんでそんなに議事録にこだわっているの?」という疑問もあるかもしれない。

(私も昔はそう思っていたし)


そこで、まずは「議事録はなぜ重要なのか?」を簡単に整理しておきたい。

そもそも、議事録はなぜ重要なのか?

議事録が重要な理由は大きく3つある。

意思決定の証跡を残しておくため

一番重要なのは、この理由ではないだろうか。

なぜならば、究極のムダである「言った言わない論争」を最小化できるから。

一度会議で物事を決めたのにも関わらず、しばらくすると「そんな話、聞いていない」と、ちゃぶ台返しをくらう。

その結果、もう一度、全く同じ論点について議論して、意思決定をしなおさなくてはならない。

この時間ほどムダな時間はあるだろうか。


「言った言わない論争」がムダな理由は2つある。

1つ目は、「意思決定に関わっている人数×人件費×時間」分のコストが浪費されるから。

特に、会議に関わっている人が偉い人であればあるほど、このコストは大幅に膨れ上がる。


2つ目は、意思決定しなおしている時間の「機会費用」が発生するから。

意思決定をもう1度行っている間に、本来であればチャレンジできたであろうことが、できない。

これは、目に見えないコストだから、余計に注意を払っておきたい。


以上のようなムダを発生させないためにも、意思決定事項を議事録に明記しておきたい。

(じゃあ議事録に明記さえしておけばOKなのか・・・というと、実はそれだけでは足りない。この点は後でガッツリと触れたい)

次のアクションをクリアにし、関係者に動いてもらうため

議事録が重要である2つ目の理由は、「ゴール達成にむけて、関係者に確実に動いてもらうため」である。

この点を意識できていない議事録が意外なほど多い。

例えば、会議中に出てきた発言を時系列にまとめただけの「発言録」のような議事録を、たまに見かける。

そして、議論のなかで出たアクションや宿題が、発言録の中に紛れ込んでいることも…

これでは、会議が終わった直後に「で、何をすればいいんだっけ?」となってしまう。


理想としては、議事録を書くときは「会議が終わって席についたときに、すぐに関係者が手を動かせる状態」を意識したほうがよいかなと。

会議に参加していない人にも、議論の文脈を理解してもらうため

議事録を書くべき3つ目の理由は、会議に参加していない関係者にも、議論の文脈を理解してもらうためである。

議事録にToDoと決定事項だけが書いてあっても、会議に参加していない人からすると

「なぜ、その意思決定に至ったの?」と疑問に思ってしまう。

この疑問が積み重なると「取り残された感」が徐々に醸成され、モチベーションが低下していく。


そうならないためにも、議事録には「なぜその意思決定に至ったのか?」を簡潔に書き留めておき、「不参加者にもフレンドリーな議事録」を目指したいものだ。

それでも、議事録文化の浸透が難しい理由

ここまで述べてきた重要性があるものの、議事録文化を浸透させるのは想像以上にハードだ。

その理由は、1つは個々人の能力面、もう1つは組織文化にある。

個々人の「議事録を書くスキル」が不足しているから

「議事録をわかりやすく、簡潔に書く」のは、思っている以上に高いスキルが求められる。

具体的には、

  • 会議への高い当事者意識を持ち、
  • 議論内で飛び交う言語の意味を正しくキャッチアップしながら、
  • 議論の構造とゴールを踏まえた上で、
  • 短く無駄のない文章で要約する

ことが必要になる。

キャッチアップ力や理解力、文章力、構造化力が高いレベルで要求される作業。

それが議事録の正体である。


この難易度の高い作業を、「明日からやってください」と頼んでも、なかなか実行してもらうのは難しい。

だから、ちゃんと議事録を書く訓練をしておかないと

  • 議事録ならぬ「発言録」が大量に作られるか
  • 作業の難易度に心が折られて、議事録そのものを書かれなくなるか

このどちらかのパターンになりかねない。


しかし、逆に言うと、辛抱強く訓練さえすれば、議事録を書く力を身につけることはできる。

試しに3か月間、参加するすべての会議で、自分の画面を共有しながら「リアルタイムで議事録を書く」ことを繰り返してみると、あっという間に力がつくのではないだろうか。

その具体的な方法に興味がある方は、以下の記事もご覧いただけると幸いである。

【実は希少!?】会議の鍵を握る「高速議事録」スキル

「過去の意思決定を軽視」しているから

議事録文化が定着しないもう1つの理由は、「過去の意思決定を軽視する人」がいるから。

特に、経営層がそういう態度だと、その下のメンバーにまで同じ態度が伝播していき、「過去の意思決定を重視しない文化」になってしまう。

この点は非常に根深い。


・・・どういうことか?

昔のプロジェクト現場で一緒だったAさんと久々に飲みに行ったのだが、そのときに聞いた話を紹介したい。

***

Aさんは3ヶ月前、自分の会社の経営層に「組織変革の提案」をプレゼンしたそうだ。

資料を共有し、議事録もリアルタイムで書きながら、議論を進行。

そして、提案した内容の通り「組織変革の検討を進めてよい」と、経営層からGOサインをもらった。

しかし、その3か月後に、組織変革案の進捗を経営層に説明に行ったところ・・・

「そんな話は覚えていない」と言われたと。

Aさんは前回の議事録や説明資料を見せながら、「いやいや、この前説明しましたよね」と丁寧にフォローするも、

その経営層は「何となくそういう議論になったような気もする。しかし、3ヶ月前と今は、置かれている状況も環境も変わっているじゃないか。それに、"議事録に書いてあるから"と説明されても困る」と、さらに反撃してきたそうだ。

ちなみに「3ヶ月前と比べて、具体的にどのような状況の変化があったのか?」について、納得いく説明はなかったとのこと・・・

***

どうだろう、同じような経験をした人もいるのではないだろうか。


私も何度か「"議事録に書きましたよね"と言われても困る」と言われたことがある。

しかし、このセリフが一度でも許されてしまうと、しかも会社のトップがそのようなセリフを普段から吐いていると、どんな結果を招くだろうか?

おそらく、「議事録に書いてあったことは、いつでも覆せるんだ」と思う人が増えるはず。


別に、確固たる論拠があれば、過去の決定事項は覆しても何の問題もない。

「以前に意思決定したときとは、XXと〇〇の観点で、外部環境が大きく変わっている。だから、再び意思決定をしたほうがよい」と、理に適った説明ができればOKである。

しかし、そういう明確なロジックもなく、何となく「以前の気分と今日の気分が違うから」みたいなノリで、過去の意思決定事項を覆すのは、愚の骨頂だ。

なぜならば、冒頭で書いたような「言った言わない論争」からの「ちゃぶ台返し」からの「最初から検討しなおし」という、クソみたいなムダを招くから。


あるいは、あまりにも過去の意思決定をコロコロと覆すと、

「議事録に書いてある決定事項は、さほど重要ではない」という勘違いが広がっていき、

議事録の重要性が認識されない組織になってしまう可能性もある。


あえて極端な表現をすると

「気分でコロコロと決定事項を覆す人(特にトップ層)がいると、議事録文化が廃る」

これが、議事録文化がなかなか浸透しない理由ではないだろうか。


逆に、

「会議で一度決まったことは、きちんと明文化する」

「その決定事項は、よっぽどの説明がない限りは、簡単に覆してはいけない」

という覚悟を持っているトップ層がいる組織もある。

そういう組織では、議事録を簡潔にロジカルに書くことが徹底され、その議事録を拠り所にToDoが進んでいく。

そんな動きがスピーディーに、手戻りや無駄なく進んでいる。



「たかが議事録」と思って油断してはいけない。

  • この記事を書いた人

Yusuke Motoyama

外資系コンサルティング会社を経て、経営大学院に勤務。年間300冊読むなかで、絶対にオススメできる本だけを厳選して紹介します。著書『投資としての読書』。 Books&Apps(https://blog.tinect.jp/)にもたまに寄稿しています。Amazonアソシエイトプログラム参加中。 執筆など仕事のご依頼は、問い合わせフォームにてご連絡ください。

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