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【書評】『「心」が分かるとモノが売れる』鹿毛 康司

私が嫌いなアドバイスたち

「想像力を働かせなさい」

「相手の気持ちを考えなさい」

「顧客視点に立って考えなさい」

私はこれらのアドバイスが大嫌いだ。


まず「想像力を働かせなさい」について。

「想像力」とは一体なにを意味しているのか?

「想像力を働かせなさい」と言うけれど、それを言われた相手の気持ちを想像した上で言っているのだろうか?
…と、思わずカウンターパンチを食らわせたくなる。


続いて「相手の気持ちを考えなさい」について。

正論ぽく聞こえるが、正直無理だと思う。

相手の気持ちなんて、エスパーでもない限り、わかりようがない。


では「顧客視点に立って考えなさい」はどうだろうか。

これはド正論だ。

しかし、正論すぎて、

「またそれか」

「そりゃそうなんだけどさ…言うは易しだよ」

「いやいや、ちゃんと自社製品も使ってみたし、ユーザーインタビューもやったよ」

…と毎回思ってしまう。

わかっていてもできないから困っているわけで、

ぶっちゃけ「顧客視点に立って考えなさい」なんてアドバイスが役に立ったことは、1度もない。

この本は何かが違う

しかし、この『「心」が分かるとモノが売れる』という本は、何かが違う。

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決してマーケティング理論を体系的に語っているわけではないが、

だからこそ、何か得体の知れない説得力がある。

今回は、その得体の知れない説得力について、紹介してみたい。

よくある間違い①:薄っぺらいコインの裏返し

例えば、社会人向けの学習アプリを検討するシーンを思い浮かべる。

定石どおり、まずは、スキルアップしたいと考えている人を捕まえて、インタビューを行う。

すると「毎日忙しいので、隙間時間を有効に使って学びたい」という答えが返ってきたとしよう。


これまた定石どおり、顧客のニーズを真正面から受け止めたとすると、どんな提案が浮かび上がるだろうか。

素直に考えると、

「毎日忙しいあなた。1科目5分で学べるコースを準備してますよ」

「学ぶ時間を確保するための相談に乗りますよ。わが社はあなたに徹底的に寄り添います」

…みたいなポイントを提案したくなる。

パッと見た感じ、顧客のニーズを真摯に受け止める、そんな模範解答のように思える。

しかし、筆者は次のように指摘している。

お客様を知るために、私たちマーケターは様々な調査を行います。代表的なものに「アンケート」や「グループインタビュー」があります。これらの調査を実施すると、お客様と自分たちが売りたいモノ(商品・サービス)との関係値が見えてきます。そこに、どのようなニーズがあるのかを把握し、戦略の方向性が正しいかを見極めることができます。ただし、これらの手法ではお客様自身も自覚していない「心のツボ」を見つけることはできません。

『「心」が分かるとモノが売れる』p64

どうやら、顧客自身が自覚しているような「ニーズ」は、サービスの決め手にはならないようだ。

表層的な「ニーズ」ではなく、深層心理として眠っている「心のツボ」なるものを探り当てなければならないらしい。

よくある間違い②:相手に対してWhyを深堀る

では、顧客が自覚していないような深層心理を掴むにはどうすればよいか?

本書を読む前の私であれば、こう考える。

「じゃあ、顧客が答えたニーズに対して"Why(なんで)"と問いかけていけばいんじゃないか」


そこで、顧客に対して次のように問答したとしよう。

「毎日忙しいから、隙間時間を有効活用して学びたいんだよね」

「それはどうしてですか?」


「それは、キャリアアップしたいからかな」

「キャリアアップしたいのはどうしてですか?」


「キャリアアップしたいのは、35歳の節目だし、何かに挑戦しないといけない、と思ったからかな」

どうだろう、顧客が自覚していない「心のツボ」に近づけただろうか?

ここについても、筆者は鋭く指摘している。

こうした質問を投げかけられたとき、パッと答えられるでしょうか。私自身もそうですが、よほど印象に残る何かがない限り、自分でも驚くほど記憶に残っていないはずです。

事実と全く異なる「何か」を信じ込んでいることは珍しくありません。本人が語る「購入理由」や「商品に引かれたきっかけ」も必ずしも真実とは限らないのです。自分のことなのに、間違えるわけないと思われるでしょうか。実際にあったやりとりを例に挙げながら見ていきましょう。

『「心」が分かるとモノが売れる』p65

この後に、実際の例を何パターンかあげながら、

  • 人間は論理的に考えているように見えて、いかに非論理的な行動を取っているか
  • 「なぜ?」と聞かれても、相手は「無意識で機能している心のツボ」を教えてはくれない

…ということが示されている。

じゃあ、いったいどうすればいいんだ?

これが正解:心のツボは「自分の心」の中にある

筆者は、次のように述べている。

繰り返しになりますが、デプスインタビューを実施しても、お客様が「私のインサイトは〇〇です」と分かりやすく回答してくれるわけではありません。むしろ、お客様の語る言葉は断片的で、かつ抽象的です。その答えを額面通りに受け取るのではなく、インサイトを見つけ出さなくてはいけません。だからこそ、自分の心と対話する力を身につけることが必要不可欠なのです。

『「心」が分かるとモノが売れる』p85

どうやら、目を向けるべきは「自分自身の心」だそうだ。

顧客の側に立って、その気持ちになりきって、自分の心に潜り込む。

しかも、自分に無意識レベルで影響を与えている「深層心理」まで潜らなくてはいけない。

そのためには、筆者曰はく「心のパンツを脱ぐ」必要があるそうだ。


「心のパンツを脱ぐ」とは、過去の自分の「思い出したくもない思い出」と向き合うことである。

これを今回、私も恥ずかしながらチャレンジしてみたい。


例えば、さっきから述べている具体例、「毎日忙しいから隙間時間に学びたい」というニーズについて考えてみる。

***

私が「毎日忙しいから隙間時間に学びたい」と感じていたときはいつか?

遡ると、それは高校生の時だった。

ラグビー部だったし、部活で夜遅くまで練習があったから、勉強時間をたくさん確保できなかった。

だから、隙間時間に勉強できるツールがほしかった。
 

 …いや、そんな理由ではないはずだ。

もっとドロドロした、人に言いたくないような思いがあったはず。


そうだ、当時中二病だった私は、とにかく「努力している姿」を見られるのがイヤだった。

それよりも「おれ、あんまり勉強していないけど、テストの点数よかったぜ」と自慢したかったのだ。

だから、「短時間で効率よく勉強する手段」を、「こっそり」と手に入れたかった。

周りから「あいつ、努力してないのに、すげーな。天才か」と言ってほしかった。

***

どうやら、当時の私は「ちょっとしか勉強してないのに、頭がいい自分」になりたかったようだ。

これはもしかすると、1つの「心のツボ=インサイト」なのかもしれない。

このインサイトが、相手にも当てはまるかどうかを考えていくと、相手のインサイトを特定できるかもしれない。

こう書くと、おそらくほとんどの方は「いやいや、自分の心のツボ(インサイト)がわかっても、それが相手にも当てはめるとは限らないじゃん」と思うかもしれない。

しかし、筆者は次のようにコメントしている。

自分の心を深く検証し、自分の心を揺さぶる何かを探り当てます。これらが実際のビジネスに役立つのかどうかはこの時点では分かりません。というのも、インサイトの正解は一つではないからです。

(中略)

ただ、重要なのは自分自身のインサイトを導き出す力をつけることで、他者のインサイトを探し当てる力がつくということです。逆に言うと、自分のインサイトも分からないのに、他者のインサイトを理解するというのは到底無理な話だということです。

『「心」が分かるとモノが売れる』p101

以上のように、従来のマーケティング理論とは一線を画すような手法が述べられている。

  • 筆者がいかにして、自分の心を通して、相手のインサイトを探り当てているか
  • 超能力にも思える「心のツボを知る技法」がどうすれば手に入るのか

…こういったポイントが生ナマしく描かれているので、興味がある方はぜひ手に取ってみていただきたい。

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