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【要約・書評】『他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論』宇田川 元一

この本で解ける疑問は?

  • なぜ正しいと思っている意見が相手に通じないのか?
  • お互いが持つ隠れた前提を理解するには、どんなアプローチが必要なのか?


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『他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論』って?

少し遅いかもしれませんが、やっと本書を読み終えました。

読んでみた感想は大きく2点。

  1. 「現実を直視せざるを得ない厳しさ」と「人の可能性を前提とした優しさ」がマイルドに調合されている。
  2. 現場感で溢れているので、首が疲れるくらい「うん、うん」と共感しながら読むことができる。

なんでもっと早く読まなかったのだろう…と悔やんでおりますが、このタイミングで出会えて本当に良かった一冊でした。

 

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(画像をクリックすると、PDFが開きます)

  • 「わかりあえなさ」を解消するべく、関係性を「私とそれ(道具的な関係)」から「私とあなた(固有の関係)」にシフトするためには、ナラティブ(解釈の枠組み)の溝を埋める4つのプロセスを踏む必要がある。
  • 第1のプロセスは「準備」である。相手と自分のナラティヴの溝に気づくプロセスである。具体的には、次の4つの溝のうち、自分はどの溝に直面しているかを認識する。
    ギャップ型
    大切にしている価値観と実際の行動にギャップが生じるケース
    対立型
    互いのコミットメントが対立するケース
    抑圧型
    言いにくいことを言わないケース
    回避型
    痛みや恐れを伴う本質的な問題を回避するために、逃げたり別の行動にすり替えたりするケース
  • 第2のプロセスは「観察」である。相手の言動や状況を見聞きし、溝の位置や相手のナラティヴを探るプロセスである。具体的には、次の観点で探っている。
    ★相手にはどんなプレッシャーがかかっているか?
    ★相手にはどんな責任があるか?
    ★相手にはどんな仕事上の関心があるか?
    以上の観点で観察していくと、自分は安全なところにいて、相手にリスクを取らせるという歪な関係に気づくこともある。
  • 第3のプロセスは「解釈」である。溝を飛び越えて、橋が架けられそうな場所や架け方を探るプロセスである。解釈の方法は次の通り。
    ★観察でわかってきたことを眺めて、そこから相手のナラティヴを自分なりに構成してみる。
    ★相手のナラティヴの中に立ってみて自分を眺めると、どう見えるかを知る。
    ★ナラティブの溝に架橋できるポイントを、協力者などのリソースを交えて考える。
  • 第4のプロセスは「介入」である。実際に行動することで、橋(新しい関係性)を築くプロセスである。具体的には、次のステップを踏んでみるとよい。
    ★実際に行動を起こして、新しい関係性を築く
    ★新しい関係性を通して、さらに観察をする
    ★さらに観察→解釈→介入をして、新しい関係性を更新する

いかがでしたでしょうか。

概要を掻い摘んでお伝えしましたが、本書の一番のウリは「現場感溢れる実践編」です。

実践方法を具体的なエピソードを交えながら、3章分を割いて解説しています。

  • 総論賛成・各論反対の溝に挑む
  • 正論の届かない溝に挑む
  • 権力が生み出す溝に挑む

…など、どの組織にも散在していそうな溝の乗り越え方が解説されています。

気になったキーワードが1つでもあるようでしたら、是非読んでみてもらえると嬉しく思います。

学び

標準化vsローカルルール

「標準化vsローカルルール」

これは、私が新卒時代からずっと直面している永遠の溝です。

IT周りを専門として、「全社営業部門の業務標準化・効率化」のようなプロジェクトを何本もこなしてきました。

そこでは、以前書いた記事「良い当事者意識と悪い当事者意識」でもお伝えしたように、各部門やチームで部分最適化された様々なローカルルールと出会い、何度も衝突してきました。

全社視点で見れば、絶対に業務を標準化したほうがいいシーンで、必ずといっていいほど、ローカルサイドから「総論賛成、各論反対」を喰らうわけです。

前職は、この「標準化vsローカルルール」をずっと長年攻略できずに苦しんでいました。

 

…そんな記憶を遡りながら、本書を読んでいきました。

もっと早く出会いたかったですね。

 

本書の学びを転用するのであれば、まずはローカルサイドの方々のナラティヴ(解釈の枠組み)に真っ先に耳を傾ける必要があったのでしょう。

いや、ローカルサイドという表現の仕方がそもそもイケていませんね。相手にとっては、自分たちのやってきたことが標準なのですから。

相手からすると「継ぎ足し継ぎ足しで様々な工夫が重ねられてきた秘伝のタレ」を急に否定される気分でしょうから、ネガティブな反応を示してしまうのも無理はありません。

相手の立場に寄り添って、「秘伝のタレを標準化しても、味は落ちません。むしろもっとお客様が喜んで食べてくれますよ」と根気強く話していくマインドが必要だったのでしょう。

…と言語化してみたものの、「いったん自分のナラティヴを脇に置いて、相手に寄り添う」という行為は非常にエネルギーが要るものです。

このエネルギーを普段使いできるスタミナをつけねばと思った次第です。

良い反省の機会になりました。

 


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  • この記事を書いた人

Yusuke Motoyama

外資系コンサルティング会社を経て、経営大学院に勤務。年間300冊読むなかで、絶対にオススメできる本だけを厳選して紹介します。著書『投資としての読書』。 Books&Apps(https://blog.tinect.jp/)にもたまに寄稿しています。Amazonアソシエイトプログラム参加中。 執筆など仕事のご依頼は、問い合わせフォームにてご連絡ください。

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