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【要約・書評】TIME OFF 働き方に“生産性”と“創造性”を取り戻す戦略的休息術

「忙しいふりをしていないと、仕事をしてないと思われてしまう」
この共通認識が空気中にこべりついている職場も多いんじゃないでしょうか。
例えば、

  • 定時すぐに会社を出ると「暇なの?」と思われそうだから、5分だけ残業(実際は、メールやチャットの確認、カレンダーの確認など、5分という空白を埋めるのにちょうどいい動作)をしてから帰る
  • 業後にはチームの懇親会がある。ただ、定時に出発準備が完了していると「暇なの?」と思われそうだから、忙しいふりをする。「みなさ~ん、懇親会のお店に向かいますよ~」と3回くらい言われてから、ようやくPCを閉じ始める
  • 昼ごはんはコンビニで買ったおにぎりかパンをデスクで食べる。食べ終わった時点では、昼休みは残り40分。でもデスクで読書とかしていたら「暇なの?」と思われそうだから、昼休みは20分で切り上げて仕事に戻ることにする

私も以前コンサルタントだったのもあって、いろいろな企業の職場を見てきましたが、どこも似たり寄ったりでした。
暇だと思われるのを恐れている人が、多いこと多いこと。
まあ、私もそのうちの1人だったわけですが。

しかし今回、「休息をとっている人のほうが、生産性が高い」と教えてくれる、救いの本を見つけました。
TIME OFF 働き方に“生産性”と“創造性”を取り戻す戦略的休息術』です。

『TIME OFF 戦略的休息術』とは?

本書は、発売後すぐに米国のAmazonでベストセラーを獲得した話題の書です。
ビジネスコーチかつエンジェル投資家のジョン氏と、AI研究者のマックス氏の共著。
読んでみると、大量の引用とインタビュー結果で裏付けされているのがわかります。

この本は「常に忙しい中で、ストレスに耐えながら、働きまくることが勲章」だと勘違いしている人々にガツンと警鐘を鳴らしてくれる一冊です。
「1日8時間フルで働くよりも、1日のうち4時間だけ働いて残りの4時間を休息にあてたほうが生産的」というスタンスのもと、
大量のファクトとロジックによって、長時間労働勲章派をボコボコにしてくれます。
日本のビジネスパーソンの必読書にしてもいいくらいでしょう。

そんな本書は、次のテーマに沿って「休息の重要性」を教えてくれます。

  1. 創造する
  2. 休息する
  3. 睡眠をとる
  4. 運動する
  5. ひとりになる
  6. 内省する
  7. 遊ぶ
  8. 旅をする
  9. 繋がりを断つ

中でも、個人的には「創造する」のパートが学びにあふれていました。
学びを整理すると、次のような感じです。

創造的な4つのプロセス

本書では、創造的プロセスとして次の4つが紹介されていました。

  1. 準備する:座って一生懸命仕事をしている
  2. 温める:心と頭を休ませて、違うことに取り組んでみる
  3. ひらめく:ずっと待っていた「これだ!」と思える瞬間が訪れる
  4. 確認する:ひらめきが正しいか実証する

このプロセスで最も大事かつ見落としがちなのが「温める」のところ。
一度考えるのを放棄して、頭を休ませる、ないし別のことに没頭してみる。
その間、頭のなかの無意識くんがアイデアを醸成してくれる。
そして、あるとき、「これだ!」と思えるアイデアが降ってくる。
・・・これが、本書で紹介されていたプロセスです。

問題をあえて「放棄」することが大事

さて、この話を読んでみて、真っ先に思ったことがあります。
ジェームス W.ヤング氏の『アイデアのつくり方』(1988年)で述べられていた考え方と似ているなと。

この本によると、アイデアを生み出すプロセスとして次のことが述べられていました。

  • 【第一段階】資料を収集する
    ⇒特殊資料
     直近で向き合うべきテーマに関連する資料を深く掘り下げて読み込む。
    ⇒一般資料
     日ごろからあらゆる方面のどんな知識にも貪欲にアンテナを張っておく。
  • 【第二段階】資料を噛み砕く
    ⇒色々な要素を一つ一つ心の触覚で触ってみて、並べてみて、
     向きや明るさを変えてみて、関係を探し出す
    ⇒何か少しでも思いついたら、不完全でもいいから書き留めておく
  • (絶望状態)
    ⇒何もかも心の中でごっちゃになって、どこからもはっきりした
     明察は生まれてこない…
  • 【第三段階】問題を全て放棄する
    ⇒問題を無意識の心に移し、眠っている間に、それが勝手に働くのに
     任せておく
    ⇒何でもいいから、自分の想像力や感情を刺激するものに没頭する
  • 【第四段階】アイデアが訪れる
    ⇒ヒゲをそっているとき/風呂に入っているとき/トイレのときなど
     …何気ないときにアイデアが心の中に飛び込んでくる
  • 【第五段階】アイデアを現実に連れ出す
    ⇒アイデアを実現するために忍耐強く手を加える

アイデアのつくり方』でも、「絶望状態=頭の中がごっちゃごちゃになって、何も思い浮かばない状態」に陥ったタイミングで、問題をすべて放棄することが推奨されています。
そうして、問題を放棄して意識下から外して、無意識に考えてもらう。
すると、トイレのときなんかに、ふとアイデアのほうから訪れてくれる瞬間があると。

この両著の主張からも、問題をあえて放棄することは、アイデア発想にあたり欠かせないプロセスといえるでしょう。

「何もしていない状態」を受け入れる職場にならなきゃ

私自身も、DXや業務改革を推進する傍ら、記事や動画などのコンテンツづくりを担っています。
コンテンツづくりをやっているとよくわかりますが、アイデアが浮かんでくるのは、PCと向き合っている瞬間ではないんですよね。
そうじゃなくて、デスクでぼーっとしているとき、家やオフィスの周りを散歩しているとき、昼寝の直後、トイレしているとき、とかなんですよ。
だから私からすると、天井をみて「ぼー」としている時間も、一応仕事はしているわけです。

もしここで、「ぼーっとしている人」「散歩の時間が長い人」「思いにふけっている時間が長くて、チャットやメールの反応が遅い人」などに対して、
「あいつ、本当に仕事やってんのかよ?」「暇なんじゃね?」と思う人がいる場合、クリエイティブな仕事が一気にやりづらくなるでしょう。
いわゆる「手をせかせか動かしている人=仕事をしている人」という認識が強い職場では、創造的なアウトプットは生まれにくい。
・・・そんなことを、『TIME OFF 働き方に“生産性”と“創造性”を取り戻す戦略的休息術』を読んでみて、改めて思い知らされました。

とはいえ、ただ「何もしなければいい」わけではない

ただ、「何もしていない状態が大事だ!」という主張だけを切り取って、マジで何もしない人もいます。
「クリエイティブな仕事に割く時間がない」とか言い訳をして、いざ業務改善なんかで空き時間を作っても、何も新たなアウトプットを生み出してくれない。そんな人がいるのも事実です。

では、「空き時間=何をしなくていい休息時間」があって、クリエイティブな仕事ができる人とできない人、何が違うのか?
・・・その違いは、前段の「仕込み」にあります。

クリエイティブな仕事ができる人は、普段から大量にインプットをして、目の前に仕事に思考投入しまくっています。
何冊も本を読んで、有識者に話を聞いて回って、周りからフィードバックをもらうことも怠らない。
目の前の仕事1つひとつに「そもそも何のためにやるのか?」「仕事が完了した状態はどんな状態か?」「目的達成のためにどんな手段があるか?」「なぜその手段?どうやってやる?」などを考えまくっている。
・・・そのうえで、「何もしない休息時間」を過ごすことで、頭の中にもともとあったアイデアが熟成されて、よりよいアイデアへと進化していきます。

一方で、普段からインプットも特にせず、言われたことをただ作業としてこなしているだけの状態で、「何もしない休息時間」を過ごしても、何も生まれてきません。
この点を勘違いして「忙しいので、新しい企画を考える時間がありません」と言い訳する人も、これまで何人も目撃してきました。

まとめると、

  • クリエイティブな仕事をするためには、「何もしない休息時間」が大事。かつ、そういう時間を受け入れる職場にしていくべき
  • ただし、普段からインプットをして思考しまくっているからこそ「何もしない休息時間」が活きてくる。この点は留意すべき

自戒の意を込めて。

マルチタスクやったほうがいい説!?

もう1点、本書を読む中で、目から鱗が落ちる学びがありました。

「マルチタスクやったほうがいい説」です。

定石的には、人間の脳は「同時に複数の物事を処理するのが苦手」なので、マルチタスクは避けた方がいいとされています。
しかし、本書を読んでみると、「ある条件」を満たしていれば、マルチタスクはむしろやったほうがいい、と記されていました。

僕たちの脳は、一度にひとつのことしか積極的に処理できない。だから結局のところ、マルチタスクと言いながら、タスクを交代で行っているだけだ。それも、大きな代償を払って。
でも、マルチタスクを可能にする方法もあるかもしれない。時間と深さの度合いを変化さえてみよう。

(中略)

しかし、「1度に」と言っても文字通り「1度」でやり切るべきだと言っているわけではない。時間枠が重なるようにするべきだと言っているのだ。
分刻み、時間刻み、もしくは日を単位にして集中しなければならないのは変わらないが、週や月、年の単位で見たときに活動は多様であった方がいい。

(中略)

「・・・なぜこれが非生産的に聞こえるかというと、私たちがマルチタスクに頼るのは決まって追い詰められたときだからです。急いでいて、すべていっぺんに済ませたい。でもマルチタスクをゆっくり行うと、すごい効果があるんですよ」

p122

つまり

  • 「どんどん発生する複数の仕事に追い詰められたとき」ではなく、「自分で意図的に複数の仕事を設けているとき」
  • 「分刻みや時間刻み」ではなく「週や月、年単位」

…であれば、むしろマルチタスクはやったほうがいいのです。

思い返せば、このマルチタスクの考え方、私もしっくりくるものがあります。
普段はDXや業務改革をやっていますが、だからこそ、ブログ記事や本の執筆が捗っています。
というのが、業務改革を進めていると、日々の仕事でたくさんのモヤモヤ体験や成功体験に直面します。
そういった体験をネタにして、ブログなり本なりのコンテンツ作りが成り立っています。
このように、現場実務とコンテンツ作りをマルチタスク的にやっているからこそ、相乗効果的に仕事の質が上がっているんだなと、改めて認識できました。

以上、例のごとく、私事の話に逸れてしまいましたが、
「1日4時間働いて、4時間休息」のほうが、生産的になれる。
そんな新たな発見を提供してくれる良本でした。

  • この記事を書いた人

Yusuke Motoyama

外資系コンサルティング会社を経て、経営大学院に勤務。年間300冊読むなかで、絶対にオススメできる本だけを厳選して紹介します。著書『投資としての読書』。 Books&Apps(https://blog.tinect.jp/)にもたまに寄稿しています。Amazonアソシエイトプログラム参加中。 執筆など仕事のご依頼は、問い合わせフォームにてご連絡ください。

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