マインドセット マインドフルネス 書評

【要約・書評】私とは何か――「個人」から「分人」へ

家族と話しているときの自分と、会社の社員さんと話しているときの自分が明らかに違う。
いったいどっちが本当の自分?
家庭内の自分が本当の自分だとすると、会社にいるときの自分は偽りの姿?
もしかしたら、自分は二重人格?
・・・というモヤモヤにスパッと決着をつけてくれる本が見つかりました。

「分人主義」を提唱している『私とは何か――「個人」から「分人」へ』です。

『私とは何か――「個人」から「分人」へ』とは?

本書は、小説家の平野啓一郎氏による本です。
氏が小説を生み出すなかで見えてきた、新しい人間観。
それが「分人主義」です。

分人主義とは?

分人主義を説明するためにも、個人(individual)と分人(dividual)の違いを押さえておく必要があります。

「個人」とは、「これ以上分割できない単位」のことです。
言い換えると、分割することができない一人の人間のこと。
その中心には「本当の自分」なるものが存在していて、いろんな仮面を使い分けながら過ごしている。
例えば、本当の自分さんが、家庭で過ごすときは「家庭の仮面」、会社で過ごすときは「会社の仮面」を被り分けて過ごしている。
そんな考え方のことです。

一方の「分人」とは、対人関係ごとに見せる複数の顔すべてが「本当の自分」だとする考え方です。
家庭で過ごしている自分も、会社で過ごしている自分も、すべて「本当の自分」だと認める。
分人A(家庭ver)が50%、分人B(会社ver)が15%、分人C(友人ver)が35%・・・という構成比率で自分が成り立っている。
そんな考え方のことを「分人主義」と呼びます。

さらに、この分人にも3ステップあって。

  1. ステップ1:社会的な分人
    不特定多数の人とコミュニケーション可能な、汎用性の高い分人。当たり障りのない接し方をするのが特徴。初対面の人と話すときは、この分人を使っているはず。
  2. ステップ2:グループ向けの分人
    同じグループ独自の風土を共有できている人に対する分人。例えば、会社や学校の仲間と話すときは、この分人を使っているはず。
  3. ステップ3:特定の相手に向けた分人
    互いの思考の癖やテンポが共有できる人に対する分人。意気投合して接している感があれば、それはステップ3の分人を使っているということ。

なぜ「八方美人」にムカつくのか?

このステップを理解すると「八方美人になぜムカつくのか?」が説明できるそうです。

私たちは、どうして八方美人が気に入らないのか?例えば、パーティ会場などで、さっきまで自分に調子のイイことを言っていた人間が、今度はまた、別の人を捕まえて調子のイイことを言っていたとする。私たちは、それを見て「なんだ、あいつは?八方美人なヤツめ」と不快になる。しかし、自分と喋っていた人が、別の人と喋っているというだけで、さすがに一々、ムカつくわけではない。あの人は、あんんあ偏屈人間を相手にしても、うまく会話が出来るんだなと感心することだってある。その違いは何なのだろう?

八方美人とは、分人化の巧みな人ではない。むしろ、誰に対しても、同じ調子のイイ態度で通じると高を括って、相手ごとに分人化しようとしない人である。

『私とは何か――「個人」から「分人」へ』p80より

「八方美人」という言葉をこれほど解像度高く解説した本を、はじめて読みました。
分人主義という概念を理解していると、こういうものの見方ができるものだと感心いたしました。

以上の話を図に整理すると、こんな感じでしょうか。

「分人主義」と「課題分離」ができると、精神衛生が超絶よくなる

本書を読んでみて、改めて、自分の精神衛生を整える方法論が確立できました。
キーワードは「分人主義」と「課題分離」の2つ。この2つを徹底できるだけで、見違えるほど精神衛生がよくなります。

まず、分人主義について。
例えば、会社で上司Aにボコボコに怒られたとします。
でも、会社でボコボコにされたのは、あくまで「上司Aに対する分人」です。
他の「同僚BとCに対する分人」は無傷。
もっというと「上司Aに対する分人+同僚Bに対する分人+同僚Cに対する分人≒会社に対する分人=20%」だと仮定すると、残り80%の分人(友人とか家庭とかに対する分人)は全くの無傷。
そう考えると「たかだが、自分を構成する20%の分人が、ちょっぴり怒られただけ。残りの80%には何の影響もない」と思えてきます。

ただし、分人主義を使って精神衛生を良くするために、注意すべきポイントが1つ。
それは、分人のポートフォリオを分散させておくこと。
例えば、自分の分人比率が「家庭80%、友人10%、会社10%」くらい偏っていたとします。
すると、家庭80%の分人が上手くいっていないときに、自分の心が揺らぎやすくなります。
投資でもよく「卵を一つのかごに盛るな」と言いますが、複数の分人をまんべんなく使い分けるのが、より理想的でしょう。

次に、課題分離について。
課題分離とは、会社などで怒られたときに、「これは、仕事っぷり(課題)に対する指摘であって、自分の人格に対する指摘ではない」といった感じで、自分と課題を分離させる考え方のことです。
何か仕事で上手くいかなかったときに、いちいち「自分がイケていないせいだ」なんて思っていたら、キリがありません。
あくまで、自分が出した「成果物」が否定されたのであって、自分という人格自体が否定されたわけではない。
こんな感じで、自分と課題を切り離せると、一気に精神衛生が楽になります。
それだけじゃなくて、仕事の効率も楽になります。
あまり慣れていない仕事をしているときは、途中段階で上司に持って行って「ごめんなさい!全然わかんなかったです。ボコボコにしてください」とアドバイスをもらいやすくなるからです。
仕事と課題を分離できると、ボコボコにフィードバックされても痛くも痒くもなくなる。
すると、ボコボコにフィードバックされて、フィードバックされたことを直していく・・・このサイクルを高回転で回しやすくなります。

最後は話が少しそれましたが、「分人主義」を理解できると、精神衛生が見違えるほどよくなる。
そんな話を書いてみました。

  • この記事を書いた人

Yusuke Motoyama

外資系コンサルティング会社を経て、経営大学院に勤務。年間300冊読むなかで、絶対にオススメできる本だけを厳選して紹介します。著書『投資としての読書』。 Books&Apps(https://blog.tinect.jp/)にもたまに寄稿しています。Amazonアソシエイトプログラム参加中。 執筆など仕事のご依頼は、問い合わせフォームにてご連絡ください。

-マインドセット, マインドフルネス, 書評

© 2024 BIZPERA(ビズペラ)-ビジネス書評はペライチで