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【要約・書評】『教養としての「世界史」の読み方』本村 凌二

この本で解ける疑問は?

  • どうして「歴史」から学ばないといけないの?
  • 「ローマの歴史の中には、人類の経験がすべて詰まっている」というのは本当か?
  • どうしてローマは興隆し、長期に渡って安定し、滅びたのか?

『教養としての「世界史」の読み方』って?

ビジネス書として、いよいよ歴史系に初挑戦します。

本書に関心を持った理由は、「古代ローマの先進性」でした。

古代ローマの紀元前後の生活水準は、日本の「江戸時代」に匹敵すると言われます。
1500年以上も前に、これほど「断トツ」で発展し、最後には滅亡も経験した帝国は歴史上、稀有な存在です。

「ローマが興り、発展の後、安定し、最後には滅亡する」という流れには、何か「普遍的なロジック」が眠っているのでは?

そんな期待から手に取ったのがこの本です。

 

また、歴史学者が書いた歴史書は、「深いんだろうけど、堅苦しい表現で難しそう」という印象があるかと思います。

一方で、池上彰氏といった歴史学者ではない方が書いた歴史本に対しても、「わかりやすいけど、もしかして、浅い可能性があるのでは」という懸念を抱く方は少なくないはず。

しかし、本書は、歴史学者が書いた「深くて、わかりやすい本」という、「良いとこ取り」のような本です。

図1の「オレンジ部分」に該当する本ですね。

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図1

※図1の「良書の選び方」に関心を持たれた方は、こちらの記事をご覧ください。

-Why-なぜ書かれたのか?

本書の目的は明言されていませんが、序章に興味深い記述を発見しましたので、引用します。

すべての歴史は「現代史」である

歴史は過去のことを学ぶ学問だと多くの人が思っています。

確かに歴史学者は過去のことを知るために文献を調べ、遺跡を調査し、当時の人々に関する知識を深めます。

歴史という学問に知識は必要不可欠ですが、単に知識を得ることが歴史という学問の本質ではありません。われわれ学者が必死に過去の知識を学ぶのは、今の選択に役立てるためです。

(中略)

「ローマの歴史の中には、人類の経験のすべてが詰まっている」という丸山眞男氏の言葉には、ローマがその歴史の中で犯した過ちを、人類は今の歴史でも繰り返している、という一種の皮肉が込められているのかもしれません。

(中略)

起きている問題の多くに、過去に人類が犯した過ちが関係しています。過去と今は繋がっているのです。過去の出来事を、今の視点で見直すことで、歴史から得た知識を未来に活かす道を探ります。(33ページ)

この記述から、「現代で再び過ちを犯さないように、歴史から普遍的な学びを得ること」が本書の目的といえます。

-What-なにをすべきか?

では、「歴史から普遍的な学びを得る」ためには、どんな視点を持って、歴史を眺めればよいのでしょうか?

筆者は次の7つの視点を提供してくれます。

  1. 文明はなぜ大河の畔から発祥したのか
  2. ローマとの比較で見えてくる世界
  3. 世界では同じことが「同時」に起こる
  4. なぜ人は大移動するのか
  5. 宗教を抜きに歴史は語れない
  6. 共和制から日本と西洋の違いがわかる
  7. すべての歴史は「現代史」である(23ページ)

では具体的に、これらの視点でどうやって歴史を読み解くのでしょうか?

-How-どのようにすべきか?

ここでは、著者が「ローマ史」の専門家であることや、本書で繰り返し引用している「ローマの歴史の中には、人類の経験のすべてが詰まっている」というメッセージに着目してみましょう。

つまり「2. ローマとの比較で見えてくる世界」という視点を掘ってみます。

ここで、この視点で歴史を眺めたときの「ペライチ」を図2に示します。

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図2

ローマ史を眺めるときの「定番の問い」はやはり次の3つでしょう。

  • なぜ興隆できたのか?
  • なぜ安定した支配ができたのか?
  • なぜ没落してしまったのか?

本書を読み解きながら、この3つの問いに答えていきます。

なぜ興隆できたのか?

この答えは、ローマ人の真髄である「ごまかさない力=誠実さ」です。

この「誠実さ」があったからこそ、既存のシステムを洗練させて「独自の国政システム」を作り上げられた。
また、宗教的な誠実さゆえに形成された「個よりも公の安泰を重んじる意識」。

他のギリシアやアテネには見られなかった、突出した「誠実さ」が、ローマが発展した理由であると、筆者は述べています。

なぜ安定した支配ができたのか?

この答えは、先述の「誠実さ」に加え、「寛容さ」を発揮させたからです。

ローマ人の真髄である「誠実さ」を駆使し、例えばギリシアの水道を模倣し、11本ものローマ水道を「ごまかさずに丁寧に」作り込んだ。
また、他国を「力や強制力」ではなく「寛容さ」をもって支配する。
そうすることで、他国を自国の戦力として取り込んでいく。

以上の「誠実さ」と「寛容さ」が上手く歯車として噛み合うことで発展していきました。

なぜ没落してしまったのか?

この答えは、勝者として「傲慢」になってしまったからです。

何百年も「勝者」としてヨーロッパに君臨してきたローマには、徐々に「傲慢さ」が形成されていたようです。

この「傲慢さ」が、政局が不安定になったことで露呈してしまいます。

こうした「誠実さ」とは真逆の「傲慢さ」がきっかけで、ローマの国力はゆっくりと弱体化していきました。
そして最後は、国力が弱体化したところを、ゲルマン民族に滅ぼされてしまいます。

 

以上の「興隆→安定→没落」の流れを見ていくと、"ローマは「誠実さ」で興隆し、「寛容さ」で安定した後、「傲慢さ」で滅びた"、という一つの結論が浮かび上がってきます。

この結論の主語を、ローマから、不正を犯したどこぞやの大企業に置き換えてみるとどうでしょう。
もし、同じように文章が成立するのであれば、"「誠実さ」で発展し「寛容さ」で安定した後「傲慢さ」で滅びる"、というのは、我々が学ぶべき教訓といえますね。

 

学び

本ビジネス書を通して、次の学びを得ました。

「文明はなぜ大河の畔から発祥したのか」の問いからも、学びが得られた

先述した「7つの視点」の1つである「文明はなぜ大河の畔から発祥したのか」という問いの答えもまとめてみました。
図3をご覧ください。

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図3

端的に述べると、「乾燥化が起きたから」が、この問いの答えとなります。

この学びから得られる学びは、「恵まれた環境には文明は生まれない」ということです。

文明には様々な定義がありますが、図4のGoogleの検索結果を引いて「世の中が進み、精神的・物質的に生活が豊かである状態」と定義してみます。

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図4

つまり、極論「恵まれた環境では、豊かさは生まれない」とも読み取れます。

これは言い過ぎだとしても、現代に活かせる学びだと思いませんか?

例えば「安定した大企業に自分の身を置いても、自分の中の文明は発展しない」という批判などに、色々と応用できそうです。

もちろん、この批判は「文明が発展することは、必ずしも良いことなのか」という問いに答えを出すことが前提ですが。

歴史からの学びには、優れた「問い」が必須

これまで述べてきた「ローマはなぜ興隆し、長期にわたり発展し、没落したのか」という問いしかり、「文明はなぜ大河の畔から発祥したのか」という問いしかり。
歴史からの「良い学び」には、必ず「良い問い」がセットでついてきます。

個人的には、これこそが、「学校教育の世界史から、良い学びが得にくい理由」「世界史がつまらない理由」だと思うんですよね。

学校教育の世界史の問いは、センター試験の問題を見ても明らかな通り「選択式の、Whatを問うもの」がほとんどです。

これでは「過去の出来事の暗記」で終わってしまいます。

 

一方で、本書で出てきた問いはいかがでしたか?

  • ローマはなぜ興隆し、長期にわたり発展し、没落したのか
  • 文明はなぜ大河の畔から発祥したのか

…という「良い問い」が発せられているからこそ、「良い学び」つまり「現在や未来に活かせる学び」がたくさん得られます。

だからこそ、「良い問いを立てる力」を鍛えねば、と改めて実感した次第です。

明日から取れるアクション1つ

  • 好きな漫画『キングダム』が描いている「始皇帝時代」で一つ、問いを立てて、歴史書を読んでみる

  • この記事を書いた人

Yusuke Motoyama

外資系コンサルティング会社を経て、経営大学院に勤務。年間300冊読むなかで、絶対にオススメできる本だけを厳選して紹介します。著書『投資としての読書』。 Books&Apps(https://blog.tinect.jp/)にもたまに寄稿しています。Amazonアソシエイトプログラム参加中。 執筆など仕事のご依頼は、問い合わせフォームにてご連絡ください。

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