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【要約・書評】『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?』林 總

この本で解ける疑問は?

  • 簿記とかビジネス会計やっても全然頭に入ってこないんだけど、会計って本当に役に立つの?
  • 自分はマーケティング部だけど、それでも会計は必要?
  • なぜうちの会社は儲からないの?

『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?』って?

餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?

これに即答できなかったことが、本書を読んだ理由です。

この問いに答えるためには、餃子屋と高級フレンチの利益構造を知っておく必要があります。
それ自体は、私もわかっていました。

じゃあ、どうすれば、利益構造がわかるのか?そもそも利益構造とは何なのか?

お恥ずかしながら、この問いに答えられなかったんですよね…

というわけで、

餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?

この問いに答えていきます。

-Why-なぜ書かれたのか?

本書の「はじめに」には、次のように述べられています。

あなたは、なぜ「会計」を学ぶのでしょうか?

会社の業績を株主に報告するためでしょうか?それとも、経営を有効に行うためでしょうか?

私は、経営に役に立たない会計は、ほとんど意味を持たないと思います。

経営とは、「業務を執行する行為」のことです。つまり、経営者は会社の達成目標(ゴール)を定め、業績を把握し、会社内部で行われているさまざまな活動をコントロールする必要があります。

経営における会計の使命は、会社の活動を「可視化」することです。(1ページ)

(中略)

会計はビジネスにおける「経営情報」そのものですから、経営と一体で学ぶことが大切です。そこで、本書は経営の素人である主人公の由紀が、会計のプロである安曇教授の助けを得て、会計と経営を学んでいく、という物語形式をとりました。(3ページ)

つまり「会社の活動を、業務の執行に役立つ形で可視化する術を会得してもらうこと」が本書の目的です。

-What-なにをすべきか?

では、この本を読んで、何ができるようになればいいのか?

「会社の活動を、業務の執行に役立つ形で可視化する」とはどういうことか?

この答えは、本書のエピローグに示されていました。
それが図1です。

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図1(213ページより引用))

これは、主人公である由紀が経営する洋服メーカーのバランススコアカードです。

このバランススコアカードのエッセンスが、各章に散りばめられています。

なので、バランススコアカードのことを、物語形式で理解していくことができる。
これが、本書の一番の魅力でしょう。

-How-どのようにすべきか?

では、本題に入ります。
バランススコアカードを知ることができましたので、いよいよ、冒頭の問いに答える準備ができたわけです。

我々が答えねばならない問い、覚えていますでしょうか?

餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?

「自社のビジネスモデルに合った経営をブレずにやった方が儲かる」

これが、本書を読んだうえで、僕が出した答えです。
言い換えると、「身の丈に合った経営を徹底した方が勝つ」と考えています。

どういうことか?

そこでまず、餃子屋と高級フレンチの利益構造を見てみます。
図2をご覧ください。

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図2

ここで、キーとなる用語の説明をしておきます。

  • 固定費
    わかりやすく「維持費」ということにします。店の建物やキッチンの設備を維持するための費用です。
    餃子やフレンチを1個作ろうが100個作ろうが、これらの維持費は変動しませんよね。これが固定費です。

  • 限界利益率
    限界利益とは、「売上から変動費(材料費)を引いた額」です。
    平たくいうと、餃子1皿を売った時に発生する追加的利益のことです。
    限界利益率は、「限界利益÷売上」で算出されます。
    要は、図2の緑部分です。限界利益率が高いほど、緑部分の傾きが急になります。

  • 損益分岐点
    積み上げた限界利益と固定費が一致する点を指します。
    限界利益>固定費であれば、利益が出ており、
    限界利益<固定費であれば、損失が出ているといえます。

整理すると、図3のようになります。

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図3

高級フレンチの場合

  • 限界利益率が高いので、フレンチ1皿が売れるごとに、追加的な利益がドンと増えます。
  • しかし、高級な店構えが一級品の設備を維持しないといけないので、固定費が高くなります。
  • そのため、損益分岐点を超えるまでに時間がかかるので、損失が生まれやすい。
  • ただ、損益分岐点を超えた後は、利益が増えやすいといえます。

一方で餃子屋の場合

  • 限界利益率が低いので、餃子1皿が売れても、得られる追加的な利益はフレンチよりも小さくなります。
  • しかし、フレンチと異なり、店や使うお皿は古いままでも特に違和感はないので、固定費は低く抑えることができます。
  • そのため、損益分岐点を超えやすいので、フレンチよりも損失が生まれにくい。
  • その代わり、損益分岐点を超えた後の利益の上がり幅は、フレンチよりも小さくなります。

…と、こういった整理ができます。
要は、フレンチにはフレンチに合った、餃子屋には餃子屋に合った経営スタイルがあるわけです。

餃子屋がフレンチの真似をしようと高級な店構えにしたり、食器をオシャレにしたりしても、固定費の回収が難しくなるだけです。
これだと、損失が生まれやすくなるわりに、損益分岐点を超えても、得られる利益はたかが知れています。

これが、先ほど「身の丈にあった経営をした方が勝つ」と書いた理由です。

…と、述べてきましたが、実態はそう単純ではありません。
図1のバランススコアカードを思い出してください。

そう、ここで述べてきた内容は、あくまで図4のオレンジ部分にすぎません。

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図4

「餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?」

本来この問いに答えを出すためには、顧客の視点、業務の視点、学習の視点まで深掘って議論すべきです。

本書を読めば、バランススコアカードのエッセンスを、全体観を持って理解することができます。

是非本書を読んでいただくと、「この記事での僕の考察が、いかに浅くて薄っぺらいものか」がより一層わかると思います。

 

学び

本ビジネス書を通して、次の学びを得ました。

「どちらとも言えますね」の一歩先へ

「それはケースバイケースですねぇ」

「どちらとも言えますよねぇ」

「~と言えます。とはいえ、~とも言えます」

誰もが耳にしたことがある、こうした言い回し。

一見すると、賢そうですよね。
でも、見方を変えると、「で、どっちなんだよ!」と言いたくなります。

そんなモヤモヤを抱きつつ、僕もよく使ってしまうわけですが…

 

ただ、本書を読んでみて、「どちらとも言えますね」の一歩先への踏み出し方が分かった気がします。

例えば、今回の「餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?」の問いについても、答えは「どちらとも言えます」です。
しかし、その根拠となるロジックが明確にありましたよね。

要は「どちらとも言えますね」には2パターンあって。

  1. 思考停止して「どちらとも言えますね」と言っているパターン
  2. きちんと思考投入「どちらとも言えますね」と言っているパターン

当然、聞き手によって、前者は無価値。後者は価値があります。

価値ある「どちらとも言えます」を言える人間になりたいものです。

明日から取れるアクション1つ

  • 価値ある「どちらとも言えます」を言えるように、反対意見と賛成意見の両方を考えるようにする
    (以前も似たことを書きましたが、最近サボりがちだったので、もう一回書いておきます)

  • この記事を書いた人

Yusuke Motoyama

外資系コンサルティング会社を経て、経営大学院に勤務。年間300冊読むなかで、絶対にオススメできる本だけを厳選して紹介します。著書『投資としての読書』。 Books&Apps(https://blog.tinect.jp/)にもたまに寄稿しています。Amazonアソシエイトプログラム参加中。 執筆など仕事のご依頼は、問い合わせフォームにてご連絡ください。

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