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【要約・書評】ネットワーク・エフェクト

まずは、Twitterで「ネットワーク エフェクト」と検索してみてください。

すると、名だたる起業家やベンチャーキャピタル界隈の方々が、やたらとシェアしている様子が伺えるかと。

私みたいにのんびりと時を過ごしている人と違い、分刻みのスケジュールで動いている彼ら彼女らが、隙間時間で読んでSNSでシェアまでしている本とはいったい何か?

それが『ネットワーク・エフェクト 事業とプロダクトに欠かせない強力で重要なフレームワーク』です。

『ネットワーク・エフェクト』とは?

本書はシリコンバレーのベンチャーキャピタルのゼネラルパートナーであるアンドリュー・チェン氏の本です。
著者は、Uberの成長期に1人の社員として、事業のスケールを担った方でもあります。

つまり、本書のキーワードである「ネットワーク効果」を、Uberの実体験ベースで語ってくれるわけです。
これ以上「ネットワーク効果」を語るうえでピッタリの方はいらっしゃらないでしょう。

では、何度か出てきている「ネットワーク効果」とは何なのか?

本書の表現を借りると、「ネットワーク効果=多くの人が使えば使うほど、サービスの価値が高まること」を意味しています。

例えば、メルカリなどのフリーマーケットのアプリは、ネットワーク効果によって急激に成長したサービスです。

  • 売り手と買い手の双方がネットワークに参加して、はじめて成立するビジネスモデル
  • 書い手からすると、出品者や出品される商品数が多ければ多いほど、品ぞろえが豊かで使い勝手がよい
  • 売り手からしても、買い手が多ければ多いほど、商品を売りやすくなる
  • アプリ自体の機能や価格が変わらずとも、売り手と買い手の人数が増えるだけで、サービスの利便性が上がる

ざっくり、メルカリはこんなロジックでネットワーク効果を発揮しているといえます。

「ネットワーク効果」の誤解

しかし、そんなネットワーク効果を理解するうえで、注意すべきポイントがあります。

本書の第1章で「メトカーフの法則」という曲者キーワードが登場するんですね。
このメトカーフの法則は「ネットワークの参加者が増えると、サービスの価値は指数関数的に上昇する」というロジックを発見した法則です。

確かに、携帯電話が普及し始めたタイミングでは、このロジックがバッチリ当てはまります。
そのため、よく「メトカーフの法則=ネットワーク効果」だと認識されがちです。

ところが、メトカーフの法則にも考慮できていない点がありまして。
例えば、以下の点です。

  • 「誰もそのサービスを使っていないときに何をすべきか」が不明
  • 「アクティブユーザとそうでないユーザの違い」が説明できていない
  • 「ユーザが増えすぎて過密状態になったときの問題」が語られていない

例えばメルカリを使っていると、ユーザが増えすぎたせいで、粗悪品を売る人も混ざっていますよね。
それに、私も普段、メルカリの商品を売るときにPUDOのボックスを使っているのですが…
以前は使用者が少なくて、PUDOボックスを快適に使えていました。
しかし、ユーザが過密になってきて、なかなかPUDOボックスも空きが出にくくなっています。

・・・このように、サービスのユーザが増えたからといって、一概に利便性が増し続けるわけではない。
この点を、メトカーフの法則は考慮できていません。

ネットワーク効果を解像度高く語れる「コールドスタート理論」

そこで、本書『ネットワーク・エフェクト』が目を付けたのが「コールドスタート理論」なるものです。

コールドスタート理論は、ネットワーク効果を大きく5つのポイントで分解して解説しています。

①コールドスタート

  • 利用者ゼロ=無価値。望ましい需要者と供給者を同時に集めるのが難易度S級
  • カギは「アトミックネットワーク=自律するのに必要な最小単位のネットワーク」を作ること

②転換点

  • アトミックネットワークの再現方法がわかる→複数ネットワークを作る→ある点を超えると成長が加速
  • 「招待制」「ツールで誘ってネットワークに引き留め」「成長を金で買う(キャンペーン等)」が有効

③脱出速度

  • 転換点から逆戻りしないよう「ユーザ獲得効果(口コミ・紹介)」「エンゲージメント効果(ユーザ間の交流)」「経済効果(収益・CVR向上)」を加速

④天井

  • 市場が飽和状態になり、顧客の獲得コスト増や、バイラル効果(口コミの拡散)鈍化
  • クリック率低下、ネットワークのヘビーユーザによる反乱、スパムなどを地道に解決する必要あり(近道はない)

⑤参入障壁

  • 機能や価格ではなく、ネットワークの質・規模による優位性を築くことが重要

本書は、この5つのポイントごとに章立てを設けて、ネットワーク効果の正体を丸裸にしてくれます。
起業家の誰もが、プラットフォームビジネスの覇権を握りたいと考えている。
だからこそ、起業家やベンチャーキャピタル界隈が、本書に着目したのでしょう。

コールドスタートを突破するカギとは?

個人的に一番印象に残ったのは、コールドスタートの突破方法です。

コールドスタートとは「利用者がゼロのときはネットワークの価値もゼロ」という状態を意味しています。
この状態からネットワークを盛り上げるためには、良さげな需要者と供給者、Uberでいう乗客と運転手を「同時」に集めなくてはなりません。
・・・しかし、これが難しい。

私自身も、現在、スタートアップのお手伝いをしていて、まさにサービスローンチのタイミングで、コールドスタート問題に頭を悩ませています。
だからこそ、気になります。
このコールドスタートを突破するために、押さえておくべきことは何か?

私の見解では、大きくは2点あると思います。

第一に、本書でも提唱されている「アトミックネットワーク」を作ること。
第二に、「待てるほう」から先にネットワークに集めること。

順に説明します。

アトミックネットワークを作る

コールドスタートを突破する1つ目のカギは、「アトミックネットワーク」です。

アトミックネットワークとは、自律するのに必要な最小単位のネットワークを意味しています。

例えば、Uberのタクシー配車サービスも最初は「午後5時、通勤列車カルトレインの5番ストリートとキングストリートの駅前でタクシーに乗りたい人」と、かなり細かい単位でのニーズを狙っていたそうです。
この「最小単位へのこだわり」こそが、アトミックネットワークの重要な点です。

では、なぜアトミックネットワークを作ったほうがよいのでしょうか?
理由は大きく2つあります。
第一に、1つネットワークを作ってしまえば、同じ施策を繰り返して規模を拡大しやすいから。
第二に、ネットワークの周辺に口コミで広がりやすいから。

ちなみに、このアトミックネットワークを作るためには、次の点を工夫するとよいそうです。

  • ある瞬間的なニーズを抱えるニッチなネットワークを選ぶ
  • ハードサイド=外交的で活動量が多く、ネットワークに多くの労力を割いてくれる人」
    →ハードサイドのニーズを満たすサービスづくりが重要
  • 機能や使い勝手・価格よりも「ネットワークの質と規模」を重視する

特に「ハードサイドに注目する」という点は、目から鱗が落ちました。

私自身も、現在まさに、ローンチ予定のサービスについてユーザインタビューを行っているところでして。
最初は、一般的なユーザ候補にインタビューをしていたのですが、本書を読んでからは「ハードサイドになりそうな人」に絞ってインタビューをするよう方向転換しました。
すると、集中して尖らせるべき機能がわかったり、サービスの付加価値がどこにあるのかが以前よりクリアになったり、向かうべき方向が定まりました。

プラットフォームビジネスは「待てるほう」から増やす

コールドスタートを突破する1つ目のカギは、「待てるほう」から増やす。

これは、MBAの授業で教わった考え方です。

いきなり、ネットワークに売り手と買い手の両方に参加してもらうのは難しい。
売り手は、買い手がいないと参加したくないだろうし、逆もまた然り。
一見すると、ニワトリタマゴ問題(ニワトリがタマゴを生むのが先か、タマゴからニワトリが生まれるのが先か)にもみえる、この論点。

ここを解決するためには、「待てるほう」から増やす必要があります。

例えば、Uberであれば、タクシーの運転手と乗客のどちらが待てるか?

乗客は待てないでしょう。タクシーを使いたいときに使えないのは論外ですから。
したがって、「待てる存在」である運転手から先に増やしていくアプローチを取らざるをえません。

ウーバーの運転手インセンティブ、増加の一途(WSJ)」のようなニュースがたびたび注目されるのも、Uberがドライバーの確保に注力しているからでしょう。

以上、『ネットワーク・エフェクト』を紹介してきました。

個人的には、2022年の年末に読んで一番読んでよかった本でもあります。

スタートアップの経営や新規事業開発に携わっている人であれば必読でしょうし、最新のビジネストレンドを押さえるのにもピッタリですので、よろしければ。

  • この記事を書いた人

Yusuke Motoyama

外資系コンサルティング会社を経て、経営大学院に勤務。年間300冊読むなかで、絶対にオススメできる本だけを厳選して紹介します。著書『投資としての読書』。 Books&Apps(https://blog.tinect.jp/)にもたまに寄稿しています。Amazonアソシエイトプログラム参加中。 執筆など仕事のご依頼は、問い合わせフォームにてご連絡ください。

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