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【要約・書評】リーダーシップ進化論―人類誕生以前からAI時代まで

「人類史でリーダーシップを語る、知のエンタメ本」

本書の魅力は、この一言に尽きます。

本書『リーダーシップ進化論』では、数えきれないほどの引用が出てきます。
しかも、引用1つひとつが、骨太な古典なり専門書ばかり。
パラパラと本をめくってみると、人類史の用語が散りばめられており、「ハウツー本を読みたい」と思って手に取った人からすると、荷が重い本に思えるかもしれません。

しかし、騙されたと思って、「はじめに」だけでも読んでみてください。
骨太な古典や専門書の引用、膨大な数のファクトの間を埋める、筆者のロジックがとにかく面白いんです。
もはや、壮大な知のエンタメ本と言い切ってしまってよいでしょう。

今回は、そんな本書の魅力を書いていきます。

『リーダーシップ進化論』とは?

本書は、株式会社リクシスの創業者であり代表取締役副社長の酒井穣氏によって書かれた本です。

仕事と介護の両立支援サービスや、AIを用いた高齢者支援サービスを提供している会社を運営している筆者ですが、その傍らで膨大な読書量を誇っておられるのでしょう。
本書のページ下部のスペースには、ほぼ全ページ途切れることなく、計1000近くの脚注がびっしりと書かれています。
どれだけの読書量をこなせば、あれほど盛りだくさんの引用を自由自在に操れるのだろうか・・・と、筆者の筆力に圧倒されるはず(その圧倒感も本書の魅力なわけですが)

リーダーシップとは、自己組織化に抗うこと

本書の一番の学びは「自己組織化」というキーワードです。

自己組織化とは「誰の意思にもよらず、特定の秩序構造が勝手にできあがること」を指します。

・・・え、どういうこと?と思いますよね。
ただ、このキーワードは、おそらく本書のなかで一番出てくる言葉なので、しっかり意味合いをおさえる必要があります。

そこで、本書で自己組織化のわかりやすい例として、進化生物学者ピーター・ターチンの世俗的サイクルが紹介されていました。

人口が増加する
→「限られた資源(土地など)」の価値が上がる
→労働者の賃金が資源の価値に対して相対的に下がる
→土地などを持つ富裕層と労働者の格差が広がる
→富裕層による「限られた社会的ポスト」の争いが激化する
→安価な労働力を背景とし、富裕層間での競争規模が大きくなる
→国家が富裕層を制御できなくなる
→格差が極限に近づき、人々の不満が高まる
→社会不安が増すことで暴動や戦争が起こる
→暴動や戦争が富裕層の富を破壊して格差が縮まる
→人口が増加する(振り出しに戻る)

歴史は長期的にこのサイクルを繰り返しているそうです。
しかし、1行1行は誰の意思にもよらず発生している事象です。
例えば、2行目の「限られた資源の価値が上がる」について、誰も意思をもって「資源の価値を上げたい」と思って上げているわけではありません。
ただ、人口が増加した結果として、資源の価値が「上がってしまって」いるのです。
そして、資源の価値が上がると、これまた結果として、労働者の賃金が「下がってしまう」。

このように、1つひとつの事象は、誰の意思にもよらずに発生しているのですが、結果として「1つの大きな規則なり構造」を生み出している。
この目に見えない流れのことを、自己組織化と呼びます。

そして、自己組織化の流れに気づいて抗うことができる人。それがリーダーなのである

・・・ここが、本書の一番の学びでした。

筆者はどのような「自己組織化のロジック」を見抜いたのか?

自己組織化のロジックを見抜き、それに抗うものがリーダーである。
これが本書が一番伝えたいメッセージだろうなと思ったわけですが、一方で次のような疑問がわきます。

「いやいや、自己組織化のロジックを見抜くなんて・・・簡単に言いなさるな」
「そういうあなたは、どんなロジックを読み取ったというんですか?」
・・・と、問いたくなりますね。

しかしご安心ください。
本書は「筆者が読み取った、自己組織化のロジック」が400ページ以上にわたって展開されています。
しかも第1章は「人類以前のリーダーシップ」で、38億年も前からさかのぼって、1つのストーリーとして「人類史でみる、リーダーシップ版進化論」が描かれています。
・・・壮大すぎます。

一応、本書のメモを以下に載せておきます。・・・が、本書の行間のロジックがあまりに精緻なので、私の理解度はまだ60%くらいだろうな、とも思っています。

しかし、壮大すぎてピンとこないかというと、そんなこともありません。
随所に、わかりやすい具体例が差し込まれているからです。
例えば、「群れの規則」の説明時に、「セミナーの終わりに誰か1人が拍手するとみんなもつられて拍手しだす事象」が例に出されていたり。
あるいは、返報性のロジックを説明するために、社長と新入社員のやりとりが描かれていたり。
要所要所で、読み手が理解しやすいよう、また読み手が飽きないよう、工夫が凝らされています。

そんな感じで、400ページ超にわたる筆者の見解が示されたあとに、「さあ、読者の皆さんは、どう思いますか?どの時間軸で、どんな自己組織化のロジックを読み取り、どのように抗うのですか?」と問われている気分になります。
まさに、表紙の推薦文にあるような「著者から我々への挑戦状」という表現がふさわしい一冊といえるでしょう。

  • この記事を書いた人

Yusuke Motoyama

外資系コンサルティング会社を経て、経営大学院に勤務。年間300冊読むなかで、絶対にオススメできる本だけを厳選して紹介します。著書『投資としての読書』。 Books&Apps(https://blog.tinect.jp/)にもたまに寄稿しています。Amazonアソシエイトプログラム参加中。 執筆など仕事のご依頼は、問い合わせフォームにてご連絡ください。

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