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いつまで資本主義で疲弊する?『持続可能な資本主義』新井 和宏

この本で解ける疑問は?

  • これからの時代に求められる「いい会社」とは?
  • 利益、ROE重視の経済は、今後も続くのか?
  • 社会性(社会貢献)と経済性(稼ぐこと)は両立できるのか?

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『持続可能な資本主義』って?

以前この本を、とある社長からおすすめされまして。
調べてみたら、新書版が2019/1/25に発売されるとのことでしたので、すぐ買いたい衝動を抑えて、先日購入しました。

余談ですが、少しでも「安く」本を買いたい場合は、

  • 中古はあるか
  • 近々、新書化の計画はあるか

…なんかをチェックしておくとよいかと思います。

話がそれましたので、本題に入ります。

-Why-なぜ書かれたのか?

まず、本書は、はじめに-世界中で資本主義が「息切れしている」、という見出しでスタートします。
この見出しだけでも、現状の資本主義のままではダメだというメッセージが読み取れます。
この「はじめに」を読んでみると、次の記述がありました。

なぜいま、息切れが起こっているのか。それは、リーマン・ショックが示した「利益の追求だけを目的とした効率至上主義の限界」がいまだに解決されていないからだと、私は考えています。(8ページ)

(中略) 

効率だけを追求すると、お金の出し手と受け手が分断され、バブルを引き起こしてしまう。この根本的な問題は、リーマン・ショックの後も解決されていません。つまり、効率至上主義を見直さない限り、また同じような「事故」が起こってしまいかねないのです。(9ページ)

(中略)

社員と社会を犠牲にしてまで利益を追求することが正解となるシステムに対して声を上げなければ、いずれは人々の生活が壊れてしまう。
私たちは来るべき次の資本主義を、持続可能な経済の仕組みを、考えなければならないのです。(23ページ)

つまり「社員と社会を犠牲にしないようなエコシステムを考えること」が本書の目的といえます。

では、持続可能な経済の仕組みにしていくためには、一体何が必要なのでしょうか?

-What-なにをすべきか?

本書では次のような方向性が示されています。

「フロー重視の資本主義」から「ストック重視の資本主義」への移行を実現させなければいけないのです。(57ページ)

フロー重視の資本主義は社会基盤の破壊行為をもたらす

フロー重視の資本主義とは、「一定期間の利益=フロー」を効率よく増やすことが最大の目的です。

このフロー重視の資本主義に偏り過ぎると、最終的には社会基盤の破壊行為をもたらすと、筆者は警鐘を鳴らしています。

例えば、「計画的陳腐化」という言葉があります。
これは、短期間しかもたないものを計画的に生産することを指します。
すぐに壊れてしまうものを買った消費者は、短期間のうちに買い替えをしないといけなくなる。
こうした「短期的な買い替えサイクル」を早く回すほど、利益は出る。だけど、長期的に「ストック」としては何も残らない、ということでしょう。

ではなぜ、「長期的にストックが残らない」ようなフロー重視の資本主義が今もなお継続しているのか?

フロー重視から抜け出せないのは「リターン=お金」という定義が浸透しているから

それは「リターン=お金」という定義が浸透し切っているから、と筆者はいいます。

「リターン=お金」と認識しているうちは、何をするにしても「お金を得よう」という発想から抜け出せません。

「お金」というのは無限に追い求めることができるので、何円、何億円得ようと、次々により大きな目標が設定され、短期的なフローを求める流れが終わることはありません。

しかし、今後日本の人口は減っていくとすると、「際限なく利益を求める流れ」はいつか限界を迎えます。

では、限界を迎えて疲弊し切る前に、やるべきことは何なのでしょうか?

リターンを再定義し、ストック重視の資本主義へ

まずはリターンの定義を見直すことが重要だと筆者はいいます。
そんな筆者は、リターンの定義を次のように設定しています。

リターン=資産の形成×社会の形成×心の形成=幸せ

受益者が「資産」を増やし、同時に自分が投資したお金が「社会」を豊かにしたと実感できれば、結果として「心」も豊かになる。そしてその3つがかけ算されたとき、「幸せ」というリターンがもたらされる。
(47ページ)

そして、資産や社会、心というものは「積み重なるもの」であるため、ストック重視の資本主義におけるリターンと位置付けられる、というわけです。

 

しかし、「資産の形成」はわかるとして、「社会の形成」「心の形成」はどうやって測るのでしょうか?
リターンとして求める以上、「測定できないといけないのでは?」というのが私個人の疑問でした。

この疑問に、筆者は次のように答えています。

もし指標をつくって画一化しようとすれば、企業は指標を満たそうとするあまり、個性を失い、社会から多様性が失われてしまう。(60ページ)

(中略)

客観的な評価ができないのなら、主観的な信頼にすべてを委ねよう(61ページ)

どうやら、「リターンは客観的に測定できるべき」という考え方も、変わっていかねばならないのでしょう。

「お金以外のリターンを、自分の主観や美意識で定義できるようになること」が今後必要になるんだなと感じました。

 

そして、このようなリターンが何から生まれるかというと、本書でいう「いい会社」というわけです。

では、「いい会社」は各々の主観で定義するとして、どうやって「いい会社」を作っていけばよいのでしょうか?

-How-どのようにすべきか?

筆者は「八方よし」という考え方を提唱しています。
「八方よし」の対象は、次の8つを指しています。

  1. 社員
  2. 取引先・債権者
  3. 株主
  4. 顧客
  5. 地域(住民・地方自治体など)
  6. 社会(地球・環境など)
  7. 国(政府・国際機関など)
  8. 経営者

そんなの無謀だろ!というのが、私の率直な感想でした。
しかし本書は、実際の企業の具体例を挙げながら、「八方よしとは何なのか」「どうやって実現するのか」を説明してくれます。

 

例えば、個人的に難しそうに感じた「2.取引先・債権者」についてです。

日曜劇場なんかを見ていても、取引先や下請け企業にしわ寄せがいく、そんな構図が真っ先に頭に浮かぶと思います。

しかし、本書で例示されている「ダイニチ工業」は違いました。

「ダイニチ工業」は、家庭用石油ファンヒーターなどを製造する企業です。

こういった商品は、一般的には、秋口から冬にかけて需要があるため、製造や仕入れの時期が偏りがちです。
そうすると、部品を供給してくれる企業の受注も1年間安定させることが難しいといえます。

ですが、「ダイニチ工業」は逆転の発想で、1年間安定的に製品の製造を行い、部品の注文も1年間満遍なく実施したそうです。
やはり「在庫が増える」というデメリットはありますが、それ以上に次のようなメリットがあるといいます。

  • 取引先の企業が安定しないと、そこで働く優秀な作業員が他業種に流れてしまう
  • 取引先への発注を安定的にすることで、そういった優秀な作業員の流出を防ぐ
  • 取引先の優秀な作業員の流出を防ぐことで、自社の製品の品質も維持する

こうした企業姿勢を貫いているからこそ、「ダイニチ工業」は取引先とも「信頼というストック」を積み重ね、結果として安定的に高品質な製品を生み出しているのでしょう。

他にも、「八方よし」の具体的な考え方や事例について知ることができます。
「いい会社をつくるためには?」という問いを持って読むには、おすすめの一冊です。

 

学び

本書を通して、次の2点の学びを得ました。

  1. 「自分が会社にどんなリターンを求めているか」を見直す必要がある
  2. 「自分がいる/いきたい会社がどんなリターンを求めているか」を見極める必要がある

1. 「自分が、会社にどんなリターンを求めているか」を見直す必要がある

本書にて、リターン=資産の形成×社会の形成×心の形成、という定義がありました。
これは、自分が会社に求めるリターンについても、同様にいえると思います。

  • まず、「資産の形成」という変数について。
    給料はあくまで資産形成の一部に過ぎません。「仲間」や「スキル・経験」も、「見えざる資産」として、注視すべきでしょう。
    給料、仲間、スキル・経験を踏まえて、「どんな資産を形成したいか?」を再考しようと思います。

  • 次に、「社会の形成」という変数について。
    私は「人の志の実現の支援」という関わり方で、社会の形成に貢献したいと考えています。
    なので、「支援したい仲間」が描く社会がどんなものかによって、この変数が左右されます。
    まあ、よっぽど「悪い社会」じゃなければ、何でもウェルカム、くらいに考えています。

  • 最後に、「心の形成」という変数について。
    私の心の形成には、次の2点の変数が絡んでいるように思えます。
    ①プライベートの時間
    ②仕事における仲間
    なのでこの2点をリターンとして求められるような企業を探していこうと思います。

2. 「自分が行きたい会社が、どんなリターンを求めているか」を見極める必要がある

仮に1.で定義したリターンを求めて転職活動をするとします。

そこで忘れてはならないことが、「自分が行きたい会社が求めているリターン」を把握することです。

例えば、行きたい会社が、本書でいうフロー重視の資本主義をバリバリ実践していたとしましょう。

そういう環境で「プライベートの時間を」とか言い出しても、聞く耳はあまり持ってもらえないでしょう。

自分が行きたい会社が、「社員」「取引先」「株主」「顧客」…といった各ステークホルダーに対して、「どのようなリターンを求めているのか?」を把握することもまた、「いい会社」を見つける方法の1つだと思います。

明日から取れるアクション1つ

  • 自分にとっての「いい会社」を1つ以上見つけてみる

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  • この記事を書いた人

Yusuke Motoyama

外資系コンサルティング会社を経て、経営大学院に勤務。年間300冊読むなかで、絶対にオススメできる本だけを厳選して紹介します。著書『投資としての読書』。 Books&Apps(https://blog.tinect.jp/)にもたまに寄稿しています。Amazonアソシエイトプログラム参加中。 執筆など仕事のご依頼は、問い合わせフォームにてご連絡ください。

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