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【要約・書評】『ESG思考』夫馬 賢治

この本で解ける疑問は?

  • ESG(環境・社会・企業統治)の真の意味合いとは?
  • SDGsとESGの本質的な違いとは?

『ESG思考』って?

「ESG」「SDGs」「サステナビリティ」

コロナ禍に入り、より一層こういったキーワードが注目を浴びています。

  • コロナ禍に入って経営が厳しくなったから、ESGの取り組みを劣後させる
  • コロナ禍に入って経営が厳しくなった今だからこそ、ESGの取り組みに優先的に投資をする

…いったいどちらの主張が正しいのか?

ESGとSDGsはいったい何が違うのか?

このへんがイマイチ、ピンと来なかったので、友人に薦めてもらった『ESG思考』を読んでみました。

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(画像をクリックすると、PDFが開きます)

  • ESGに対する認識は①オールド資本主義、②陰謀論、③脱資本主義、④ニュー資本主義の4種類がある。
  • ①オールド資本主義は「企業が環境・社会への影響を考慮すると利益が減るので、環境・社会への影響を考慮すべきではない」とする考え方である。すべての経済認識の出発点であり、多くの日本企業が未だにこの認識を持っている。
  • ②陰謀論は「企業が環境・社会への影響を考慮すると利益が増える」という立場なのにも関わらず、「環境・社会への影響を考慮すべきではない」とする考え方である。これは「企業が環境・社会への影響を利益が増える」という綺麗事の裏側には壮大な陰謀があると斜に構えるスタンスを指している。
  • ③脱資本主義は、オールド資本主義の人が「利益」「利益」といって利益ばかりを追求することを快く思わず、利益が減ったとしても環境・社会への影響を考慮した経済活動が必要だと主張する考え方である。
  • ④ニュー資本主義はシンプルに「利益が増えるのだから、当然、環境・社会への影響を考慮すべき」だと捉える考え方である。
  • ニュー資本主義に移ろうためには、4つの基盤を構築しておく必要がある。
    第一の基盤は「長期思考」である。気候変動・労働者の人権問題・水資源枯渇などの長期的リスクに対応することが利益をもたらすとする考え方が必要である。
    第二の基盤は「データ」である。企業を比較・分析するために必要なESGに関するデータの開示が重要である。
    第三の基盤は「マテリアリティ」である。どの環境・社会項目のどのような影響に対処すれば利益が増えるのかを見定める必要がある。
    第四の基盤は「ESG評価体制」である。データとマテリアリティをもとに、投資家にとって有益なESGスコアを評価する体制が整う。

いかがでしたでしょうか。

この本を読むと、巷で話題になっている「ESG」なるキーワードに対するモノの見方が俯瞰できます。

個人的に、ニュー資本主義の根幹をなすのは「長期思考」だと感じました。

短期的な損得に左右されるのではなく、長期的な見えないリスクを捉え、リスクをチャンスとして再定義して利益に繋げる。

この一連の「長期思考」を培うことが大事である。

それが本書のメインメッセージだと感じました。

学び

ESGとSDGsの違い

ところで、ESGとSDGs…この2つの違いはいったい何なのか?

知人にサステナビリティの専門家がいるので、この2つの違いについて聞いてみました。

まず意味的な違いは、以下の通りです。

  • ESGは機関投資家の投資判断時に検討するよう提唱された観点
  • SDGsは国連加盟国や企業が達成すべき目標

 

実はこの2つ、語られる視点が全く違うんですね。

  • ESGは「機関投資家」の目線で作られた観点
  • SDGsは国などの総力をあげて「世界全体」で達成すべき目標

両者で視点が全く異なるわけですから、ESGとSDGsで重なる部分もあれば、ESGにはガバナンス(役員構成・役員報酬など)が含まれているなどの違いもあります。

 

表面的にはこのような違いがあります。

では、この表面的な違いをきちんと理解しないと、企業活動にどのような影響が生じるのか?

実は、企業の目標や戦略を立てる際に、ESGを出発点とするかSDGsを出発点とするかで結果が大きく異なります。

先日、知人と議論してまとまった図を使いながら説明します。

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ESGを出発点とした場合

  • 長期投資を行う上での諸観点の一つ「CO2排出量」に対応するには?…という問いからスタートします
  • 2030年までにCO2ネット排出量ゼロを実現する…という目標が立ちます
  • この目標をSDGsの視点で評価すると、SDGs13.2「気候変動対策を国別の政策、戦略および計画に盛り込む」に対応していると解釈できます
  • 一方で、この目標をESGの視点で評価しても、「長期投資を行う上の将来的なリスクに対応しており、機関投資家にとっても魅力的な目標」だと解釈できます。

SDGsを出発点とした場合

  • SDGs13.2「気候変動対策を国別の政策、戦略および計画に盛り込む。」に対応するには?…という問いからスタートします
  • 気候変動に対応するための検討を進める…という目標が立ちます
  • この目標をSDGsの視点で評価すると、SDGs13.2「気候変動対策を国別の政策、戦略および計画に盛り込む」に対応していると解釈できます
  • 一方で、この目標をESGの視点で評価した場合、機関投資家からすると「その対応で長期的に儲かるのか謎??」となってしまいます

 

少し極端な例を挙げましたが、こうした「SDGsだけを考慮した結果、機関投資家に評価されない目標や戦略」が今の日本企業には散見されるそうです。

ESG→SDGsの順番で学ぶのがオススメ

以上を踏まえると、「長期的に自社が利益を上げ続けるためには?」という問題意識をお持ちのビジネスパーソンは、ESG→SDGsの順番で学んだ方がよいと思います。

理由は先ほどお伝えした通り、企業として長期的に稼げる戦略・目標を立てるためには、ESGを出発点としたほうが、道を間違えないからです。

具体的に書籍名を挙げると、『ESG思考』と『SDGs思考』と紛らわしい名前の2冊がありますよね。

 

最初に読む本としては、『ESG思考』をオススメします。

「ESGの視点=利益が増えるのだから、当然、環境・社会への影響を考慮すべきとする視点」を最初に持った方がいいと思うからです。

この本を読むことで、なぜESGを考慮すると利益が上がるのか…このメカニズムが理解できます。


https://www.amazon.co.jp/dp/4065196108

 

そしてESGの視点を踏まえたうえで、具体的な目標の立て方を『SDGs思考』を読んで学んでみるといいかもしれません。


https://www.amazon.co.jp/dp/4295009970

 

もしサステナビリティ分野を詳しく学びたい方は、『ESG思考』→『SDGs思考』の順番でキャッチアップすることをオススメします。

一方で、基礎知識程度に知っておきたい方は、『ESG思考』さえ読めば、歴史的経緯も含めて十分網羅的に理解できると思います。

 

それにしても、食わず嫌いで避けていたこの分野、めちゃくちゃ面白かったです。

またサステナビリティ系の本を読んで、ご紹介できればと思います。

  • この記事を書いた人

Yusuke Motoyama

外資系コンサルティング会社を経て、経営大学院に勤務。年間300冊読むなかで、絶対にオススメできる本だけを厳選して紹介します。著書『投資としての読書』。 Books&Apps(https://blog.tinect.jp/)にもたまに寄稿しています。Amazonアソシエイトプログラム参加中。 執筆など仕事のご依頼は、問い合わせフォームにてご連絡ください。

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