スキルセット 番外編

「ミーティング時間が長すぎる問題」の構造

「ミーティングが多すぎる。作業をする時間が全く取れない」

「ミーティングを設定したいのに、参加者の予定が全く合わない」

おそらく、多くの人々が、この悩みに直面しているのではないでしょうか?

しかも、たくさんの人が課題意識を持っているはずなのに、なぜか中々解決しない。

いったい、「ミーティング時間が長い問題」は何が原因で起きているのか?

 

私も以前、コンサルタントだったときに、ベンチャー気質の企業や、The日系企業、それにお役所まで、色々な現場でお世話になりました。

そんな中で気付いたのは、「ミーティング時間が長い問題」にも様々な種類がある、ということです。

今回は、コンサル時代の実体験も交えながら、ミーティング時間がなぜ長くなってしまうのか、その構造に迫ってみます。


よくある失敗

まずは、「よくある失敗」についてです。

ミーティング時間を短くしようと思って打った施策が、なぜか生産性をさらに下げてしまう。

こういった地獄絵図に共通して見て取れる傾向があります。

それは、「とにかく施策が場当たり的」であることです。

実際に私が見聞きした事例を2つ紹介します。

失敗①30分刻みのミーティングで埋め尽くされるカレンダー

「1回の会議は30分まで」

一見、画期的に見えるこのルール。

しかし、このルールを作ってからしばらくすると、逆に会議の数が増えてしまった。

こんな事例がありました。

 

とりあえず30分でミーティングを設定したものの、時間内に終わらせることができず。

そこで、別日に延長戦の会議の予定を入れてしまう。

その結果、30分のミーティングが2回、しかも別々の日に入ってしまう。

これじゃ本末転倒です。

失敗②ミーティング後の無限スレッド

「1週間に行っていい会議は5回まで」

このルールも、使い方を誤ると、不効率を招いてしまいます。

会議の数は限られている。

だから、何とかメールやチャットで意思決定しきろうと頑張る。

でも、なかなか決められない。

気づいたら、メールのスレッド数が50件。

これも大袈裟ではなく、むかし実際に目の当たりにした事例です。

なぜ、こういったことが起きてしまうのでしょうか?

ミーティング時間は3つの変数で決まる

以上で述べたような失敗をしないためには、思考停止して、本に書いてあったルールを「場当たり的」に導入してはいけません。

なぜ、ミーティング時間が長引くのか。

その真因を見極めたうえで、きっちりと真因を潰せる施策を打たねばなりません。

では、どうすれば真因を見極めることができるのか?

まずは、「ミーティング時間」が何によって決まるかを見ていきましょう。

ずばり、これです。

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  1. ミーティング1回あたりの時間
  2. ミーティングの回数
  3. ミーティング1回あたりの参加者数

この3つの変数の掛け算によって、ミーティングの時間が決まります。

これらの変数のうち、どれが悪さをしているかを見極める必要があります。

「ミーティング時間が長い問題」の構造

やっと材料がそろったので、そろそろ本題に入ります。

私がこれまで色々な現場で見聞きしてきた事象を整理すると、以下の構造になっていることがわかりました。

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ミーティング1回あたりの時間が長くなる原因

「会議の時間内にゴールが達成できない」

「毎回、会議に1時間かけてしまう」

これらの原因は大きく2つあります。

①議論が発散しすぎて、意見がまとまらない

1つ目の原因は、議論が発散し過ぎて、意見がまとまらないときです。

この原因も、さらに深堀すると、2つあります。

第一に、ミーティングの参加者が多いと、出てくる意見の種類も多くなるため、合意形成の負担も高くなります。

第二に、主催者のファシリテーションスキルが低さです。ミーティング1回あたりの時間が長引く原因の多くは、会議の舵取りをする人の力量不足にあると思います。

ファシリテーションスキルがある人は、

  • ミーティングのゴールを明示する
  • 議論の時間配分をコントロールする
  • 意思決定の基準を明確にする

…こういったことを、息をするのと同じくらい、当たり前のようにこなしています。

そして、「何が何でも、絶対に時間内に、決めるべきことを決め切る」と、強い覚悟を持っています。

 

もし、ファシリテーションスキルに課題感をお持ちの方は、『世界で一番やさしい会議の教科書』がオススメです。

これ以上ないくらい、会議を円滑に進めるための本質的なコツについて、わかりやすく書かれています。

②参加者に「決め切る」覚悟とやる気がない

ミーティング1回あたりの時間が長くなってしまう2つ目の原因は、ファシリテーターではなく、参加者側にあります。

いくらファシリテーターが優れていても、参加者に「この会議中に絶対に決め切らないといけない」という強い覚悟とやる気が無い場合は、結構苦しいです。

ファシリテーターが論点を明示したうえで、オプションを示しても、イマイチしっくりくる反応がない。

もっと質が悪いときは、「このまま通すのもあれだから、何かコメントしないと」と、わけのわからない理由で、とりあえず批判的なコメントをかぶせてくる人もいます。

そういうときの対処法は、次の3点です。

  1. 意思決定の権限を持った人に、会議に参加してもらう
  2. 会議への当事者意識がなさそうな人は、そもそも会議には招集しない
  3. 「ミーティングを時間内に決め切らないといけない」という文化を浸透させる

…と、これらが定石なわけですが…

1と2の対処法は、そもそも「意思決定プロセスや権限」が明確でないと使えません。

3の対処法は、文化醸成的な話なので、効果が出るまで時間がかかります。

あの日本電産くらい、異常なくらいのこだわりを貫き通さない限り、そう簡単には文化は根付きません。

 

何が言いたかったかというと、考えなしに「ミーティング1回あたりの時間を短くしなさい」といった表面的な号令をかけても、そう簡単には問題は解決しないんです。

ミーティング云々を解決する前に、まずは意思決定プロセスや権限移譲、組織文化に目を向ける必要があります。

ミーティングの回数が多くなる原因

次に、ミーティングの回数が多くなってしまう原因について。

先述のように、ミーティングの参加者が「決め切る」というマインドをもっていないと、何回も何回もミーティングを繰り返す羽目になります。

それ以外の原因だと、2点あると考えています。

①テキストのやり取りで済むものもミーティングしてしまっている

1つ目は、ミーティングを開くまでもない論点についても、ミーティングしてしまっている問題です。

例えば、関係者が少ない論点については

  • 検討したい背景と目的
  • 想定される論点
  • 解決策のオプション+自分なりの結論

…みたいなポイントを箇条書きにして上司に確認をすれば、意外とすんなりOKが出ることだってあるわけです。

ミーティングをカレンダーに入れる前に、一度立ち止まってみて「これはテキストのやり取りで解決できないだろうか?」と考える習慣を持ってみてもいいかもしれません。

②ミーティングに予定が合わない人が多い

2つ目が、ミーティングを設定しようと思っても、予定が合わない人が多すぎる問題です。

何かを決めるときに、意見を仰ぐ対象が多ければ多いほど、会議の参加者も増えます。

当然、会議の参加者が増えると、予定を合わせるのも難しいですよね。

ミーティングの予定調整をしている時間ほど、非生産的なものはありません。

私も、この時間は「仕事で嫌いなモノTOP3」に入ります(笑)

 

で、予定が合わないと、「予定が合わない人向けの会議」を別途、設定する必要があります。

これが、ミーティングの回数が増える2つ目の原因です。

ミーティング1回あたりの参加者が多くなる原因

では、ミーティングの参加者が多くなるのは、いったいなぜなのでしょうか?

これはハッキリしています。

「誰がどこまで決めていいのか」が不明確だからです。

例えば、営業メンバーが見る受注率ダッシュボードのレイアウトを少し変更したいとき。

「グループリーダーのAさんにOKもらえばいいだろう」と思って、Aさんに意見を聞いてみたとしましょう。

すると「何となくこの領域はBさんが詳しそうだから、Bさんにもお伺いを立てておいて」みたいなことを言われてしまいます。

そうやって、気づけばCさん、Dさん、Eさん…と、どんどんお伺いを立てる人が増えていく。

なぜ、こんなことが起きるのか?

それは、「誰がどこまで決めていいのか」を決めていないからです。

例えば、「営業メンバーが見るダッシュボードは、全部Aリーダーが決めることである」と定義しておけば、さっきみたいなスタンプラリーは発生しないわけです。

では、なぜそのような「意思決定プロセスの明確化」ができないのでしょうか?

①権限移譲できるだけのスキルセットが現場にないから

1つ目の原因は、権限移譲しようにも、現場にそれだけのスキルセットがないからです。

「営業ダッシュボードで見るべき指標の権限は、あなたが決めてください」と、グループリーダーのAにお願いしたとします。

でも、Aさんには、数字の見方を決めるスキルがない。

スキルがないので、周りのB課長やC係長に意見を聞いて回らないといけない。

…このように、権限移譲しようにも、現場のリーダー陣に、考えたり意思決定したりする能力がない。

これが、権限移譲が進まない原因です。

②組織全体で誰が何をやっているのかわからない

意思決定プロセスを明確にできない2つ目の理由は、「組織全体で、誰が何をやっているかわからないから」というものです。

組織全体の業務が見える化されていないことには、「この人には、この権限を与えよう」と議論することすらできません。

まずは、現場で行われている業務を可視化すること。

これが、権限移譲や意思決定プロセス明確化のための「1丁目1番地」です。

まとめ

以上、「ミーティング時間が長い問題」の構造について考えてみました。

整理すると、以下の3つは、ただの表面的な事象にすぎません。

  1. ミーティング1回あたりの時間が長くなる
  2. ミーティングの回数が多くなる
  3. ミーティング1回あたりの参加者が多くなる

むしろ、表面的な事象の裏側にある、以下のようなポイントに注目する必要があります。

  • 個々人のスキルセット(ファシリテーションや問題解決、意思決定スキル)の不足
  • 意思決定プロセスの不明確さ
  • 誰が何をやっているかわからない問題

ミーティングの生産性を上げるのは「いばらの道」ということですね。

しかし、その分、組織全体にもたらす改善インパクトも絶大なものになるはずです。

私自身も、これからもミーティングも生産性について科学していきたいなと思っています。

もし妙案がある方は、こっそり教えてもらえると、すごく嬉しいです。

  • この記事を書いた人

Yusuke Motoyama

外資系コンサルティング会社を経て、経営大学院に勤務。年間300冊読むなかで、絶対にオススメできる本だけを厳選して紹介します。著書『投資としての読書』。 Books&Apps(https://blog.tinect.jp/)にもたまに寄稿しています。Amazonアソシエイトプログラム参加中。 執筆など仕事のご依頼は、問い合わせフォームにてご連絡ください。

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