スキルセット マネジメント 書評

【要約・書評】正論を通せない人必見の本『Deep Skill ディープ・スキル』

「自分は正しい主張をしているのに、まったく相手が聞き入れてくれない」

「保守的で責任逃れが得意な上司にうんざりしている」

「これだから、組織で働くのは嫌いだ」

・・・こう感じている人にとっておきの本をご紹介しましょう。

Deep Skill ディープ・スキル 人と組織を巧みに動かす 深くてさりげない「21の技術」』です。

『Deep Skill ディープ・スキル』とは?

本書は、人間心理と組織力学に基づいて、組織を思い通りに動かす術を授けてくれる本です。

また筆者の石川明氏は「リクルート社で1000件以上の新規事業起案、総合情報サイト"オールアバウト"立ち上げ」「コンサルタントとして独立し、100社、2000案件、4000人の新規事業を支援」「ビジネススクールでの登壇」など広くて深い経験をお持ちの方です。


筆者の経歴を読んだときの感想は、シンプルに「なぜ新規事業でなく、人や組織の動かし方の本を書いたの?」でした。

だって、何千件もの新規事業に関わってこられた方なのであれば、当然、新規事業を立ち上げる方法論をたくさんお持ちだと思うんですよ。

にも関わらず、なぜ人や組織を動かす話にフォーカスしているのか?

こんな疑問を持ちつつ、本書を読んでみたところ、30ページ目くらいでようやく疑問が解けました。

大企業で新規事業を推進するうえで大変なのは、アイデアづくりでもなければ、PMFでもなければ、資金繰りでもない。

「人と組織を動かすこと」、新規事業推進にあたり、これが最も頭を悩ませるファクターである。

これこそ、新規事業のプロである筆者が、人と組織の話を動かす話を書いた理由です。

本書から得た学び

本書には、さりげなく人と組織を動かすための「深くてしたたかなコツ」が21個紹介されています。

それも印象的だったのですが、特に心に残ったポイントを2つ紹介させてください。

①人には期待しないこと

本書を読んで再認識したのは、やっぱり人に期待しちゃダメだなと。

というのも、この本の2章目のタイトルが「上司とは「はしご」を外す存在である」なんですよ。

まさにこれ、「人に期待するな」というメッセージだと思うんですよね。

これは私が新卒でコンサル会社に入って間もない話なんですが、半年で導入するはずだったシステムを3ヶ月で入れるってプロジェクトがありました。

そのプロジェクトは、基本的には私と上司のペアで進めていました。

上司は、実業務から会議の仕切りまで丸ごと私に任せてくれ、私も「プロジェクトをリードしているのはおれだ」と鼻息荒く励んでいました。

若かりし私は「どや、このプロジェクト、おれがリードしてんだぞ」と周りからも思ってもらえるよう振舞っていたわけですが、これがダメでしたね…

プロジェクトの途中で、1つ大きな見落としが発覚しまして。

このとき、バカな私はこう思っちゃったんですよ。「うわミスった…でも、こういうときこそ上司の出番。きっとフォローしてくれるはず」と。

…結果、そんなことはなく、会議中も上司はだんまり。

結局、他の社内の人間にヘルプを求めて、何とか事なきを得ました。…が、事なき得たあとは、なぜかその上司が「おれのおかげでトラブルが解決できたんですよ」と吹聴する始末。

「あ、上司ってそんなもんなんや。部下をビシッとかばってくれる上司なんて、池井戸潤の小説の主人公くらいなんだな」と思い知らされました。


こういった状況に対して、本書『Deep Skill ディープ・スキル』は次のような示唆を与えてくれます。

  • 上司の「道徳観」には期待しないことが大事
  • 上司を逃げられなくするためには、上司を立てながら「当事者」に仕立てるとよい

上司を立てながら「当事者」に仕立てる。これは、目から鱗が落ちました。

例えば経営会議で、自分が進めているプロジェクトの発表を行う際に「私からプレゼンする前に、本件でご指導いただいているAさん(上司)に一言頂戴したく思います」と言っておけば、Aさんは起案者代表の立場として発言せざるを得ない。

はたから見ると、上司を立てている発言に見えるが、その裏側の意図は「上司の逃げ場を無くすこと」。

この学びは、頭の奥に深く刻まれました。

②弱者でも重宝される「戦略的ポジショニング」

本書を読んでいくと、次のような記載があります。

若いうちは"与えられた場所"で「実績」を出すことにとにかく集中すればいいのですが、「仕事」や「キャリア」を選択することができるようになってからは、「自分の存在」をアピールし、「自分の価値」を最大化するために、「何を武器に働くか?」「何の専門性を磨くか?」などの選択に工夫を加え、周囲の中で際立つ「特徴」をつくり出すことを強く意識する必要があるのです。

まず大切なのは、「ほかの人と同じことをしない」ということです。

『Deep Skill ディープ・スキル』p86より

これはまさに、私自身が「組織で有利な立場をつくる」ために大事にしている考え方でもあったので、非常に共感しました。

なぜ、組織で有利な立場を作りたいのか。

それは、嫌な仕事をしたくないからです。

とにかく、自分に不向きの仕事には手を出したくない。こういう想いが人一倍強い人間にとっては、苦手な仕事を振られるのが一番しんどい。

だから、いち早く「仕事を選べる立場になりたい」と思い、次の条件を満たすスキルを必死に探すようにしました。

  • 他の人には真似できないような、高いスキルを持っていること(競争優位性があること)
  • そのスキルが、いろいろな職場・会社で必要とされていること(需要があること)

これらの条件を満たすスキルを見つけることができれば、職場における交渉力がグッと上がります。

例えば、Excelの関数をたくさん知っているとか、パワポを綺麗に作るのが得意とか、なんでもOKです。

1つでも「他の人より秀でていて、職場で必要とされているスキル」を持っておくと、あなたは「職場になくてはならない存在」になります。

そうなると、嫌な仕事を頼まれたときに「無理です。Excelの分析作業で手一杯なので」と主張しやすくなります。

逆に、他の人にもできるようなスキルしか持ち合わせていないと、嫌な仕事を断りにくくなります。

「無理です。Excelの入力作業で手一杯なので」と答えても、「じゃあその入力作業は〇〇さんにお願いしておくから、大丈夫だよ」とカウンターを食らいます。


仕事や配属を自分で選べるようにする、生殺与奪の権を自分で持っておくためにも、上述のようなポジショニング戦略を持ち合わせておくに越したことはありません。

  • この記事を書いた人

Yusuke Motoyama

外資系コンサルティング会社を経て、経営大学院に勤務。年間300冊読むなかで、絶対にオススメできる本だけを厳選して紹介します。著書『投資としての読書』。 Books&Apps(https://blog.tinect.jp/)にもたまに寄稿しています。Amazonアソシエイトプログラム参加中。 執筆など仕事のご依頼は、問い合わせフォームにてご連絡ください。

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