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レビュー『歴史思考』を読むと、メタ認知力を爆上げできる

うわ、どうせ「偉い人はみんな歴史を学ぶ」みたいな、意識高い系の本でしょ?

・・・本書を手に取る前の、私の心境です。

というのも、「エリートは歴史から学ぶべし」と謳っている本は、

  • 歴史からは、物事の普遍的なロジックを学ぶことができる
  • 歴史を知ると、この先のことを予測できるようになる

みたいな主張をしているものが多いんですね。

・・・難易度高すぎますよ。

そりゃ、経営者になるような「具体と抽象を行き来できる、高い思考力」があれば、そういう歴史の楽しみ方もできるのかもしれません。

でも、ほとんどの人は「歴史から普遍的な学びを抽出して、目の前の課題に当てはめる」なんて芸当は、そう簡単にはできないわけです。

そんなハードな技をまた押し付けられるのか・・・と思いつつ、

最近何かと注目を集めているこの本を無視するわけにもいかず、

とりあえず手に取ってみた。

本書を手に取った動機なんて、そんなもんです。


しかし、この本は、他の本とは一線を画していました。

歴史を使って、身近な悩みを緩和できます。しかも、誰でも。

Youtube更新しました

『歴史思考』とは?

本書は、Podcastで17万人のリスナーがいるコンテンツ「コテンラジオ」を配信している、深井 龍之介氏の本です。

「メタ認知を高めるきっかけを提供する」をミッションに掲げて、3500年分の世界史を体系的に、しかも面白く整理・発信する。

そんな素晴らしい活動をされている深井氏が、満を持して発刊した本。

それが『歴史思考』です。


この「歴史思考」とは何か?

私なりの理解を示すと、「歴史思考とは、歴史を使ってメタ認知を高める考え方」のことです。

もっと具体化すると、

  • 「私、なんでそんなちっぽけなことに、悩んでいたんだろう?」的な感じで、日々のモヤモヤを解消できる
  • 「当たり前を疑う」ができるようになる
  • 短期的にも長期的にも考えることができる

・・・歴史思考を学ぶと、こんな作用があります。

では、なぜ歴史思考を学ぶと、そんなメリットを享受できるのでしょうか?

この本の教え

私が、『歴史思考』で特に印象に残った点は2つあります。

僕らの当たり前は、実は「非常識」

偉人たちは、僕らの100倍つらかった

一つ目はこれですね。

毎日仕事面倒くさいなー。

上司に怒られて、きちーなー。

・・・と落ち込んでいる、そこのあなた。

チンギス・ハン(テムジン)を見てみなさい。

  • 父が殺した武将の名前(テムジン)を、そのままつけられ
  • 朝晩の寒暖差が15度以上の環境を、遊牧民として過ごし
  • 食料も不安定、治安も不安定ななかで生き残っている

この生き方と比べると、昨日、となりの部署のAさんに怒られたことなんて、めっちゃちっぽけですよ。


あるいは、ヘレンケラーを見てみなさい。

見えない、聞こえない。

後ろから危険が迫っていても、見えなくて聞こえない状態では、まず察知することは不可能です。

それに、私たちみたいに「特に苦労せずとも、物心ついたころから、言葉を話せる状態」になれるわけでもありません。

言葉という概念があることすら、気づくのに相当な年月を要します。

水を何度も触って、指文字で「Water」と何度も手に平に書いてもらって・・・そこで初めて「物事には、名前があること」を認識できる。

それくらい過酷な状況と比べれば、私たちが直面している困難なんて、小事である。


このように、私たちが「当たり前」だと思っている

「言葉を不自由なく話せること」

「争いも少なく、安全に生きていられること」

これらは、昔の方々にとっては「非常識」なのかもしれません。

歴史上の偉人のエピソードを学ぶと、私たちが「当たり前だと思い込んでいること」を自覚できますね。

「稼ぐ=すごい」という価値観は、つい最近できたもの?

これも、『歴史思考』を読んで、ハッとしました。

確かに、現在は「保有財産〇〇億円とか、あの社長すごい!」と、お金をモノサシにして、人を評価するシーンが多いですよね。

しかし、中学校や高校の歴史の教科書を手に取ってみてください。

ページ数の8割以上は、「武士や騎士が活躍している時代」あるいは「政治家が活躍している時代」で占められています。

「1000年前、この人が世界で一番のお金持ちでした」なんて記載も、授業で習いませんしね。

「お金持ち=すごい」みたいな価値観は、つい最近できた、真新しい価値観ということです。

そう考えると、「今自分はいくら持っているのか」「いくら稼いでいるか」なんて、気にならなくなりませんか?


・・・と、こんな感じで、『歴史思考』を読んでいると、

自分が固執していたものが、どうでもよく思えてきます。

まさに、この「歴史を俯瞰(メタ認知)してみると、自分の悩みがちっぽけに見える」という効用。

これこそが、『歴史思考』の一番の効果であり狙いなのかもしれませんね。

1つの時間軸で評価しない

本書で印象に残った2つ目の教えは、これです。

中国史上唯一の女性皇帝「武則天」の話が紹介されていました。

時代は、歴史の教科書に出てくる「唐」の時代です。

600年代とかの話ですね。


この唐の時代、武則天は、政治的な後ろ盾がまったくない状態で、当時の有力な貴族たちを左遷したり、粛清したりして、自身の権力を高めました。

文字通り「手段を全く選ばず」に、自分の権力をひたすら強化し続けたそうです。

また、科挙(日本でいう国家公務員試験的なやつ)で好成績だった人を官僚へと積極的に引上げ、より一層、自分の権力を高めました。

その強引な手口から、当時の武則天の政治手腕は、さほど高くは評価されなかったみたいです。

要するに、短期的には、低評価だということです。


しかし、中央に権力を集めまくった武則天の行動は、「結果的」に、中央集権国家としての中国を形作ることになると。

その後、長年にわたって、中国が中央集権国家として続いていったことは、皆さんもご存知かと思います。

つまり、中期的に見れば、武則天の行いは「強い中央集権国家の基盤を作った」という意味では、高く評価できます。


ただし、長期的に見るとどうでしょうか。

アヘン戦争や日清戦争は、皆さんも教科書で一度は目にしたと思います。

この戦争が起きたときには、中国は弱体化して、ヨーロッパ各国や日本に占領されつつあります。

なぜか?

それは、中央集権に特化しすぎて、中央以外の機能が弱体化していたためです。

つまり、長期的に見れば、中央集権国家のベースを作った武則天は、やっぱり低評価とせざるを得ません。


・・・やや乱暴な議論かもしれませんが、「どの時間軸で切り取るか」によって、人の評価は大きく変わります。

これは普段の仕事でも同じことが言えるかもしれませんね。

短期的には、営業成績をあげてなくとも、中長期的に必要になる「人材育成」には貢献してくれた人がいる。

そんな人を、いったいどう評価すればいいのか?


まさに、現代の悩みに直結することを教えてくれるのが、この『歴史思考』という本です。

私なりの解釈・本書から得られた学び

では、本書から具体的に何を学んだのか?

ここでは2点、ご紹介します。

当たり前を疑うためには、2つの軸をズラすといい

よく「当たり前を疑いなさい」と言われますよね。

耳に胼胝ができるくらい、よく言われています。

「うるせーよ。そんなのできれば苦労しねーよ」と突っ込みたくなります。


しかし、『歴史思考』を読んでみて、当たり前を疑うために必要なことが見えてきました。

時間と空間をズラせば、当たり前を疑いやすくなる

1つ目は、時間をズラすこと。

まさに、この試みによって、当たり前を疑いやすくしてくれたのが『歴史思考』です。

時間軸を昔にズラして、昔の当たり前と今の当たり前を比較させる。

こんな考え方です。

2つ目は、空間をズラすこと。

これは、旅なんかで海外を訪れると、嫌というほど実感しますよね。

例えば、日本では「時間厳守」が当たり前の文化になっています。

電車が数分遅れるだけで「くそっ、田園都市線が遅れているぞ!」と、怒号がSNSに飛び交う。

しかし、私もカンボジアやネパールに行ったことがあるので、よくわかるのですが。

ネパール人なんかは、時間に遅れてくるのが当たり前なんですよね。

彼ら彼女らは「これが、ネパリタイムだ」と冗談半分で押してくれましたが、時間に遅れるのが当たり前なんです。

時間を守ることは、世界的に見れば、常識でもなんでもないと。

このように、空間軸をズラして、他国の常識と自国の常識を比較する。

これも「当たり前を疑う」ときに有効な視点だと、今回気づかされました。

とはいえ、歴史思考は「自分にだけ」使ったほうがよい?

とはいえ、1点だけ、歴史思考を使うときの注意点があります。

それは、「歴史思考は、自分にだけ使うこと」です。

逆にいうと、歴史思考を相手に押し付けてはいけない。


歴史思考の効果は、「歴史を持ち出して、常識や悩みを相対化できる」という点でしたね。

歴史上の人物や出来事と、自分が直面している悩みとを比較して、「あ、あの時代と比べたら、今の悩みは屁でもないね」と、自分の価値観を相対化するわけです。

素晴らしい効果です。

ただし、この思考を、相手に押し付けたらダメです。

なぜならば、そのへんの老害と一緒になっちゃうから。


「おれたちの時代は、もっと若手が率先して飲み会を開いていたよ」

「おれたちの時代は、メールも無かったから、今よりも大変だったよ」

「いいな、若い人たちは恵まれていて。おれたちの時代と大違いだ」

・・・極論すると、このように「歴史を持ち出して、相手の悩みが大したことないんだと証明」しているのが、よくある老害の論調です。

本当に困っているときに、「おれたちの時代はもっと大変だったんだぞ」とか

「チンギスハンの時代は大変だったんだぞ」と他人に言われても

「知るかよ」と思います。


歴史思考の使い方を誤ると、老害思考になってしまうんじゃないか。

歴史思考は切れ味の鋭いナイフのようなものです。

いろんなものを切ることができる反面、使い方を誤ると危険です。

この点も意識すると、より歴史思考を効果的に使っていけるんじゃないでしょうか。

物事を「複雑なシステム」と捉える

話が行ったり来たりして申し訳ありません。

ここで、いったんヘレンケラーの話に戻ります。

彼女を長年フォローしてきた方としてサリバン先生が有名ですよね。

サリバン先生は、「奇跡の人」とも呼ばれている方ですが、

実はサリバン先生にとっても「奇跡の人」がいらっしゃいます。

それがグラハム・ベルという方です。

あるいは、ヘレンケラーの母に多大な影響を与えた存在がいます。

ローラ・ブリッジマンという方です。

この方はヘレンと同じハンディキャップを背負って生きた方なんですね。

ブリッジマンがいなければ、ヘレン母も希望を抱くことはなかったかもしれません。

・・・このように、物事の因果関係は、複雑に。超複雑に入り組んでいます。

シンプルな因果関係なんてものは、存在しないのかもしれません。


そこで私たちに必要になるのは、「システム思考」の考え方です。

システム思考は、物事の複雑さを複雑なまま受け入れようとする考え方です。

そして、因果関係が複雑であればあるほど、自分がコントロールできる変数も少なくなります。

「誰の、何のおかげで、明日どうなるか」がわからないわけですから、コントロールしようがありません。

この「複雑さ」に気づかせてくれたのが、今回ご紹介した『歴史思考』です。


最後に、ツラツラと述べてきた学びを、1枚にまとめておきます。

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