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【要約・書評】GitLabに学ぶ 世界最先端のリモート組織のつくりかた

先日読んだ本がすごすぎて、Twitter(X)で紹介したところ、2000超えの"いいね"をいただきました。
普段だと、組織づくりの本をツイートしてもあまり反応が取れないので、今回の結果には驚きました。

コロナによる自粛モードがなくなり、「出社解禁」を宣言する企業が多いなか、
「本当に出社するルールに戻す必要があるのか?」
「フルリモートだと本当に業務が回らないのか?」
に強い関心を持っている人が、それなりに多いのでしょう。

そんな本書ですが、まだ読んでいない方、ぜひ読んでみてください。
この本は「組織を作る人」だけでなく、日常の業務にも役に立ちまくることがたくさん、超具体的に書いてあります。
本書を読めば「世界最先端のリモート組織での仕事のお作法」が全部わかります。

『GitLabに学ぶ 世界最先端のリモート組織のつくりかた』とは?

GitLabは、アプリケーション開発を効率化できるプラットフォームを提供している企業です。
エンジニアが協業してプログラムを書いたり、修正したりしやすい仕組みを提供してくれます。

この企業は、他の会社にはない特徴を持っていて・・・それが「フルリモート組織」という点です。
社員は世界中にいて、オフィスなしで業務を回していく。
言葉にするとこれだけなのですが、実現するのは相当難しい。この難しさは、リモートワークをやったことある人であれば、誰もが実感するはずです。
しかし、GitLab社は2011年の創業以来、2000名を超える規模になるまでフルリモートで成長し続けています。

フルリモートの組織にするメリットはたくさんあります。
「世界中から優秀な人を採用できる」
「従業員に、柔軟な働き方を提供できる」
「移動や対面でのコミュニケーションなどの工数を効率化できる」
などなど。

しかし一方で、デメリットや難しさも数多くありまして。
「誰が何をやっているか見えづらい。マネジメントが大変」
「対面でコミュニケーションが取れないので、仕事のスピードが落ちる」
などなど。

しかし、本書を読むと「マネジメントが大変」「対面でコミュニケーションが取れない」といった言葉を漏らした自分が恥ずかしくなってきます。
「徹底した仕組み化とドキュメント活用」があれば、フルリモートでもスピーディーな組織運営が可能。
そのことを、本書は思い知らせてくれます。

そんな本書から学べることを、私なりにMBAぽく「7Sのフレームワーク」で整理すると、次のように表現できます。
本書は特に、System(組織の仕組み・制度)面を手厚く解説してくれていますが、個人的に印象に残ったのはShared Value(共通の価値観)の話でした。
組織づくりの根幹は、Shared Value(共通の価値観)を以下に浸透させるかにかかっている。そのことを深く思い知らされたので、この点についてもう少し紹介をさせてください。

 

GitLabの行動規範≒リモートワークの流儀

この本は「組織を作る人」だけでなく、日常の業務にも役に立ちまくることがたくさん、超具体的に書いてあります。
・・・こう冒頭に書いたのですが、その理由が、今から紹介する「GitLab Value」です。

GitLab Valueは、GitLab社の行動規範で、次の6つから構成されています。

  1. 成果:コミットした責任を果たす
  2. イテレーション:小さなステップで高頻度で改善を重ねる
  3. 透明性:オープンにコミュニケーションする
  4. 効率性:規模の拡大と効率性を両立させる
  5. コラボレーション:協業のデメリットを最小化、メリットを最大化させる
  6. Diversity, Inclusion & Belonging(多様性、包摂性、帰属感):多様性の尊重・コミュニケーションコスト抑制・帰属意識の醸成を両立させる

この6つの要素について、具体的な行動レベルで記載されていました。
中でも「効率性」のパートで書かれていた内容が印象的だったので、一部、補足しながら紹介させてください。

文章化、文章化、文章化

本書には「物事を書き留める」と表現されていましたが、私はその意味合いを「文章化、文章化、文章化・・・とにかく文章化だ」だと理解しました。
GitLab社の根幹をささえるスキルであり文化であり仕組み。それが「文章化」です。

文章化は私自身もアホみたいにこだわっている要素でして。
例えば、オフィスで会って口頭で業務指示のやりとりをした際も、必ずSlackやメールで文章化するようにしています。
理由はいくつかあるのですが、

  • 口頭で喋っていることは、割とチグハグで曖昧だったりする。ちゃんと言語化することで、自分の思考の雑さを排除できる
  • 口頭でのコミュニケーションは、その場にいた当事者にしか共有されない。別のオフィスやリモートで働いている仲間と情報格差を生んではいけない

こう書くと「いや、口頭でコミュニケーションしたほうが早い」というツッコミを受けることがあります。
そういう人には、次のように言いたい。
「口頭でごまかすな。サボるな。口ではなく手を動かせ」と。

口頭でコミュニケーションしたがる人は、一時的な楽さに逃げようとしているだけでは?と思ってしまいます。
たしかに、その場で5分で話したほうが、早いように思えるかもしれない。
しかし、2人いれば10分かかったことになるし、同じことを質問する人が今後10人、100人と増えてきたら、どんどん工数が増えていきます。
そんなことになるんだったら、20分くらい頭をひねって、「誰が読んでも3分で理解できる」よう文章を作ったほうがマシです。

もちろん、「誰が読んでもわかる文章を書く」というのは、めちゃくちゃ大変です。
かなりの訓練を要します。
「今さら自分の文章力のなさが露呈するのは恥ずかしい」と思うかもしれません。
地球のムダ削減のためにも、今すぐそのしょうもないプライドを捨てましょう。

他人の時間を尊重する

続いて、この記載を読んで頷きが止まらなかったので、紹介させてください。

GitLabでは他人が費やすことになる時間を考慮するように注意されます。たとえば、必要のない会議を避けるため、まずは会議以外の方法で物事を進められないか模索し、会議が必要な場合には任意参加できるようにします。また、どのような会議であれ、会議の招待にアジェンダを添付しておき、参加者は事前に目を通し、質問を洗い出した上で参加します。会議内容は議事録に残し、参加できなかった人たちも確認できるようにしておきます。

126ページより

ここでの大事な要素は3つ。

  1. まずチャットやメールでのやりとりで完結できないか考える。会議は最終手段
  2. 会議をするときは、事前に必ずアジェンダを送付する
  3. 議事録を残し、不参加者も会議内容を確認できるようにする

1つ目の「まずはチャットやメールで完結させる」を徹底できると、めちゃくちゃ効率が上がります。
ちゃんとわかりやすく、図解とかも駆使しながら文章を書けば、たいていの意思決定事項はSlackで完結できます。
「口頭で説明しないと伝わらないもの」は基本的には存在しません。

2つ目の「会議の前にアジェンダを送る」のは、どの会議系の本にも書いてある、当たり前of当たり前のこと。
ただ、これをちゃんとできている人、意外と少ないんですよね。
例えば、アジェンダに「マーケティング施策について」とだけ書いてくる人がいるんですが、これだと何を具体的に議論したいのかサッパリわかりません。
「〇月のGoogle広告施策と予算金額について。A案、B案、C案のどれで行くかを検討したい」くらい書いといてもらったほうが、参加者も事前に情報収集したり考えたりできます。
あるいは「会議を入れてもらってたけど、Slackで回答するね」みたいに、チャットで連絡をもらえることも。結果、会議なしで済むケースもあります。
「このアジェンダの書きっぷりで、参加者は準備ができそうか」を常にチェックする。この一手間でだいぶ差がつきます。

3つ目の「議事録を、参加してない人にもわかるように、書いておく」、これも当たり前のように見えて、難しいです。
というのも、参加していない人もわかる議事録を書くためには

  • 会議で出たToDo・意思決定事項は何か?
  • どんな経緯で意思決定に至ったのか?(意思決定のロジック・会議の空気感)

まで、ちゃんと言語化する必要があるからです。
特に、「会議の空気感」まで表現するのって、結構難しんですよ。
「A案で進める」という意思決定事項が書いてあったとして、それが
「参加者5人とも賛成でA案」に決まったのか、
「2人反対していたが、喧々諤々議論した結果、A案」に決まったのか、
ここまでわかるように描写しておいたほうが、そのあとの仕事の進め方がより円滑になるはずです。

聞かなくても、探せばわかるようにしておく

本書では「セルフサービス、セルフラーニング」と表現されていましたが、
個人的には「聞かなくても、探せばわかるようにしておく」という意味だと理解しています。

よくあるのが、何か物事を進めたいときに、誰に何を聞けばよいかわからない問題。
「あ、それやりたいなら、Aさんに聞いたほうがいいよ」
「それを進めるなら、Bさんに話を通しておいたほうがいい」
・・・みたいに、社歴が長い人ほど情報をたくさん持っている状態。これは健全ではありません。
「生き字引的に社内事情を知り尽くしている人が、既得権益の蜜を吸い続ける職場」で誰が働きたいんだよ?って話です。

本来であれば、入社1年目だろうと10年目だろうと、可能な限り、情報格差は最小化されるべき。
そのためにも、「知らないと進められない」系の情報は、全部「探せばわかる状態」にしておいたほうがいい。
そうすれば、個々人のスキルとか思考力が適切に発揮されるようになります。

この「聞かなくても、探せばわかるようにしておく」ためにも、1人ひとりの文章力・文章化の習慣が重要になってきます。
息を吸うように文章に落とす。これができているからこそ、GitLabはフルリモートでも強い組織であり続けているのでしょう。

  • この記事を書いた人

Yusuke Motoyama

外資系コンサルティング会社を経て、経営大学院に勤務。年間300冊読むなかで、絶対にオススメできる本だけを厳選して紹介します。著書『投資としての読書』。 Books&Apps(https://blog.tinect.jp/)にもたまに寄稿しています。Amazonアソシエイトプログラム参加中。 執筆など仕事のご依頼は、問い合わせフォームにてご連絡ください。

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