『投資としての読書』を出版し、はや3か月が経とうとしています。
ありがたいことにAmazonレビューは40を超え、Twitterフォロワーも3000以上増え、絶好調です。
しかし、後悔というか、本に書きそこなったこともありまして・・・
本を出版後、いろんな方から質問をもらったんですが、一番多かったのが「読書ノート」「読書メモ」の取り方について。
質問が多いということは、ちゃんと本書に書ききれていなかったんだろうなと。
ということで、今回は、ビジネス書を読んだ後の「読書ノート」の取り方を徹底解説します。
名付けて「読書ノート進化論」。(スライドが好きな方は、↓をご覧ください)
読書ノートを取る目的は、読書を「費用」から「資産」に変えるため
そもそも、何のために読書ノートを取るのか?
それは、読書を「費用」から「資産」に変えるためです。
ここでいう費用とは、すでに出ていったお金のこと。
例えば、パンを作るのに必要な材料のように「1度使ったらおしまい」のもの、それが費用です
一方、資産とは、収益を上げるために継続的に使われるもの。
例えば、工場のように収益のもととなる商品を継続的に作ってくれる存在です。
この考え方を読書にも当てはめてみましょう。
費用で終わる読書
例えば、毎年「読者が選ぶビジネス書グランプリ」なるものが毎年発表されています。
このグランプリでは毎年のように名著中の名著がノミネートされます。
2020年にこのグランプリで1位をかざった『シン・二ホン』も、多くの人が手に取ったことでしょう。
私も何人かから「『シン・二ホン』を読んでみたけど、本当にすごい本だった。絶対に読んだほうがいい」と言われました。
ただ、「『シン・二ホン』の何がすごかったの?」と聞いてみると「いや…なんというか、『シン・ニホン』はとにかくロジックとファクトがすごかったんだよ」「今後の日本の行く末が書かれていたよ。まあ、読んでみればわかるよ」と、何とも薄っぺらい感想で煙に巻かれたんですよね。
本の内容を理解して血肉化していない人からは、得てしてこういう反応がかえってくる。こういう事象を、私は「費用で終わる読書」と呼んでいます。
この「費用で終わる読書」がどれくらい深刻なのかは、以下の式で計算できます。
(本の値段+読了時間×1時間あたり機会費用)×読んだ冊数
機会費用とは、「本を読む時間を別の時間に充てたときに、得られたであろうお金」のこと。
例えば、本を読むのに2時間かかったとしますよね。
その2時間を時給2500円の副業に使っていれば、5000円得られたはず。
よく本の値段に目が行きがちなんですけど、この機会費用にも注意しておかねばなりません。
毎月5冊読んでいたとしたら、毎月25,000円がかかり、年間でも30万の費用が発生する。
読書には思っている以上にお金がかかっているのです。
これだけコストを割いたのにもかかわらず、読んだ本について「すごい本だったよ」と一言感想で終わってしまうのは、あまりにももったいない。
こういった読書は「費用で終わる読書」です。
資産に変える読書
逆に、資産になる読書とは「本で得た学びによって何かを継続的に生んでいる状態」をさします。
先ほどの『シン・二ホン』を例にあげると、本のなかで「ビジネス力×データサイエンス力×データエンジニアリング力」という枠組みが出てきます。
この枠組みに共感して、ビジネス力×データサイエンス力×データエンジニアリング力の3つを学習して、スキルアップを図ったとしましょう。
すると、『シン・二ホン』で学んだことが、スキルという無形資産へと変わります。
そのスキルを使って転職をして年収を上げることもできれば、コンテンツ化してブログやセミナーなどで発信することで収入を得ることも可能でしょう。
では、どうすれば、費用を資産に変えるような「読書ノート」を作ることができるのか?
ここでご紹介したいのが「読書ノート進化論」です。
読書ノート進化論
読書ノートにも次の段階があります。
- Lv.0写経レベル:本で印象に残っていることが、そのまま書き写されている
- Lv.1要約レベルⅠ:「書かれていた問い=書き手の問い」ベースで構造化されている
- Lv.2要約レベルⅡ:筆者が置かれている「文脈」まで加味できている
- Lv.3読書ノートレベル:「想定していた問い(=読み手の問い)」ベースで構造化されている
Lv.0:ただの写経レベル
本で印象に残っていることを、そのまま書き写している。
これは、ただの写経のレベルです。
本の表現はあくまで筆者の言葉。言い換えると「借り物の言葉」です。
このままでは「自分の言葉」とは言えません。
では、なぜ「自分の言葉」で書く必要があるのか?
アトキンソンとシフリンの「記憶の多重貯蔵モデル」を使いながら、見ていきましょう。
読書を行った瞬間の記憶は、実は目で見た短期記憶だけだと、20秒しか持ちません。
ですので、まずは、暗記しようとします。
これで何とか「知っている」状態にたどり着けます。
しかし「知っている」だけでは、実務でサクサク使える状態とは程遠い。
そこで、自分が持っている知識や経験なんかと関連付けしながら、自分の言葉で書いて整理していく。
そして、実務で試行してみる。
試行してみて上手くいった点/そうでなかった点を、それぞれ自分の言葉で書き直してみる。
この繰り返しによって、脳内の知識や経験が有機的に結びつき、「知っている」から「すぐ使える」状態へと進化していきます。
だからこそ、ビジネス書に書いてあることをただ書き写すのではなく、自分の言葉で書く必要があるのです。
要約レベル
写経レベルを突破できたら、「本で読んだことを、自分で語れる状態=要約」のレベルに突入していきましょう。
Lv.1:「書き手の問い」ベースで構造化されている
書き手の問いベースで構造化するときは、次の方程式を使います。
要約=問い×答え×根拠
問い=筆者が一番白黒つけたいと思っていること
問いとは「本の筆者が最も白黒つけたがっていること」です。
「要点」を押さえるうえで一番外してはいけないのが「問い」です。「筆者が本の中で一番答えを出したがっている問いは何か」「その本を通して、何を解き明かしたかったのか?」を明らかにするところから、要約はスタートします。
では、どうやって問いを探していくかというと、「表紙」「はじめに」「おわりに」を見ておけば高い確率で発見できます。この3か所を見ると、次の3パターンくらいの表現で問いが記されています。
- 明確に「問い」の形(疑問形)で書かれているパターン
- 「本の目的は~である」と書かれているパターン
- 本を書くに至った「背景」の中に隠れているパターン
例えば『人生が変わる最高の呼吸法』という本を例にとって、問いを抽出してみましょう。本書を読んでみると、表紙に次の記載がされています。
本書の目的は、本来の正しい呼吸法を身につけて、一生続く健康を手に入れてもらうことだ。
本書で紹介している知識を身につけ、エクササイズを実際に行えば、数週間のうちに、健康状態がよくなり、体力がつき、運動パフォーマンスも向上するだろう。
あなたが運動には縁がない普通の人でも、必ず効果があると約束できる。
少ない努力で、大きな結果を出すことができるのだ。(表紙)
ありましたね、「本書の目的」。これを「問い」の形に変換します。
「数週間のうちに、健康状態がよくなり、体力がつき、運動パフォーマンスが向上するための秘訣とは何か?」
いかがでしょうか。5~10文字くらいいじるだけなので、意外と簡単。
問いに対する「答え」を明らかにする
次に、先ほど抽出した問いに対する答えを探します。引き続き『人生が変わる最高の呼吸法』を使って探してみましょう。
この本の問いは「数週間のうちに、健康状態がよくなり、体力がつき、運動パフォーマンスが向上するための秘訣とは何か?」でしたね。
この答えは「鼻呼吸に専念し、呼吸量を"減らす"べき」です。
…どうやって探したか。答えの探し方もいくつかパターンがあります。
- 「本のタイトル=答え」のパターン
- 表紙・背表紙に書いてあるパターン
- 「はじめに」か「おわりに」に書いてあるパターン
- 第1章の最後のまとめに書いてあるパターン
- 第2章の最初に書いてあるパターン(第1章に時代背景の説明が書いてある本は、この傾向があります)
- 第3章など中途半端な位置に書いてあるパターン(このパターンの本は、まわりくどくて冗長なものが多いので、あまり良書とはいえません)
答えに対する「根拠=Why+How」を探す
要点の3つ目の要素は、答えに対する根拠です。ビジネス書においては、根拠にはWhyとHowの2種類があります。
- なぜ答えが正しいといえるのか?…Why
- 答えをどうやって実行するのか?…How
こう書くと「Howは根拠なのか」と疑問に思った方もいるでしょう。
しかし「Howに書かれている方法論が現実的かつ効果的であればあるほど、答えの裏付けとして機能している」と捉えることができます。
その意味では、Howの記載は、本の主張である「答え」を支える役割を果たしています。したがって、WhyとHowの両方を根拠として扱っています。
では、具体例を見ていくために、『人生が変わる最高の呼吸法』の話に戻すと、この本の答えは「鼻呼吸に専念し、呼吸量を”減らす”べき」でした。
まずは、「Why=なぜ、鼻呼吸に専念し、呼吸量を"減らす"べきなのか?」を探すと、「簡単にダイエットできるから」「疲れない体を作れるから」「心臓を強化できるから」「喘息を治せるから」「顔が正常に発達するから」の5つが理由だと抜き出せます。
次に「How=どうやって鼻呼吸に専念し、呼吸量を減らせばよいのか?」についても色々と方法論が書かれているので整理してみると、次のように図示できます。
Lv.2:筆者が置かれている「文脈」まで加味できている
さらに読書ノートの質を上げるために、次にやるべきことは何か?
それは、筆者が置かれている「文脈」を理解することです。
『逆・タイムマシン経営論』から学ぶ、文脈理解の大切さ
面倒くさい思いをしてまで、何のために「文脈」を理解しなきゃいけないのか・・・
この問いを考えるためにも、楠木建氏の『逆・タイムマシン経営論』からヒントを探してみました。
本書では「飛び道具トラップ」なるものが紹介されていまして。
「これからはこれだ!」と最先端の技術や知恵に迂闊に飛びついてしまうこと。それを楠木氏は「飛び道具トラップ」と名付けているわけです。何とも覚えやすいネーミングです。
では、どういうロジックで「飛び道具トラップ」に陥るかというと・・・
- 同時代の空気の土壌の上で
- 人々の耳目を引く事例が生まれ
- それを「飛び道具サプライヤー(コンサルとかベンダーとかメディアとか)」が煽る中で
- 「同時代のノイズ」が発生し
- 飛び道具が「過大評価」され
- 関心を持つ人々が成功事例から「なぜ成功したか=成功した企業固有の戦略ストーリーの文脈」を剥離させ
- 「文脈無視の強制移植」が行われ
- 「手段の目的化」と「自社文脈との不整合」によって逆機能が起こる
成功事例を参考にする際に、成功企業独自の文脈を理解しないまま施策を真似しても、自社の文脈に合わずに上手くいかない。
文脈を理解しないと、こんなことが起きます。
では、どうすれば「飛び道具トラップ」を回避できるのか?
楠木氏によると、以下のプロセスを踏む必要があるとのこと。
- 自社文脈=戦略ストーリーを理解する
- 飛び道具が埋め込まれている事例文脈を理解する
- 飛び道具を抽象化して本質を掴む
- 抽象化した本質を自社文脈に当てはめる
では、このプロセスを、読書にも応用してみましょう。
著者が置かれていた文脈を理解して「飛び道具トラップ」を回避する
文脈理解の例として、日本を代表するマーケター森岡毅氏の『マーケティングとは「組織革命」である。』を見てみましょう。
この本には、次のようなことが書かれています。
かつて私も幼稚なクセがあって、自分の作る戦略やプランは完全無欠に練り上げてから上司のところに持っていき、上司からの質問や突っ込みを全て論破防御するスタイルを主としていました。
(中略)
中には、私が頼ったり巻き込んだりせずに剛速球を投げてくることが嫌でたまらなかった上司とも巡り合いました。その頃の私は、何のためにこの人は、そんな反論のための反論のようなくだらない質問ばかりしてくるのだろうとイライラしていました。
(中略)
今の私であれば、自分の提案にわざと穴をいくつか開けておいて、上司にそこを指摘させて感謝して訂正し、そのプランを上司の付加価値も含めた2人のプランにする、というような芸当もできるのです。
『マーケティングとは「組織革命」である。』より
ここで、「自分の提案にわざと穴をいくつか開けておいて、上司にそこを指摘させて感謝して訂正し、そのプランを上司の付加価値も含めた2人のプランにする」の部分だけを安易に切り取って実践してはいけません。
「よし、自分もわざと提案に穴を開けて、上司の承認を勝ち取るぞ」と意気込んで、穴の開いたプランを持って行ってみてください。
一般レベルのビジネス戦闘力しか持ち合わせていない場合は、上司から「なんだこの穴だらけの提案は」とボコボコにされるおそれがあります。
なぜ、こんなことになってしまうのか。
それは、「自分の提案にわざと穴をあけておく技術」は、圧倒的な論理的思考力を持っており、かつそのことが社内で広く認知されている森岡氏だからこそ成立するものだからです。
言い換えると、筆者の森岡氏の文脈に依存している、ということ。
この「文脈」まで理解したうえで、読書ノートを書いていく。ここまでやる必要があります。
具体的には、次の手順を踏みます。
- 自分の文脈を理解する
→自分は論理的に考えるのが得意である。上司から「かわいくないな(指摘しがいがない)」と思われがち - 本で紹介されているノウハウが埋め込まれている文脈を理解する
→森岡さんも同じような状況だったんだな…でもワザと穴を残すのは、さじ加減が難しそうだな… - 本で紹介されているノウハウを抽象化して本質をつかむ
→抽象化すると「上司の意見も反映させた感」が大事なんだな - 抽象化した本質を自分にも当てはめてみる
→A~C案を用意して(明らかにA案推しだが)、上司に選んでもらうスタイルを取ってみようかな
このように、文脈を丁寧に捌いていくと、より再現性高い形で、ビジネス書の学びを実務で活用できます。
Lv.3:「読み手の問い)」ベースで構造化されている
Lv2までは、あくまで「本に書かれていること」を正しく理解するアプローチを取っていました。
著者が立てた問いベースで構造化をし、著者が置かれていた文脈まで加味して、本から得られる学びを抽出する。
ここまでして、初めて「本に書かれていることを正しく理解できた」といえるでしょう。
しかし、何のためにビジネス書を読むかというと、自分の仕事で役立てるため。
であれば、最終的には「著者=書き手の問い」ではなく「自分=読み手の問い」ベースで、読書ノートをまとめておく必要があります。
例えば、今回ご紹介した「読書ノート進化論」は、次の問いから生まれています。
大好きな著者、高松智史さんであれば、どうやって本を読み進めるのだろうか?
???となったと思うので、詳しく説明します。
私自身、高松さんの考え方や語り口が好きで、以下のような記事も書いたくらいでして。
で、先日『コンサルが「最初の3年間」で学ぶコト』を読んだときに思ったわけですね。
「高松さんであれば、どうやって本を読んで、メモを取っていくんだろうか?」と。
そこで『コンサルが「最初の3年間」で学ぶコト』に書かれている99個のスキルを読んでいくなかで、あることに気づきました。
99個のスキルのなかで、一番ページ数を割いて解説されている「議事録進化論」という存在に。
ページ数を割いているということは、それだけ「議事録進化論」に高松さんなりの思い入れがあるんだろうなと。
そして「議事録進化論」を読んでいくなかで「これ、読書メモ(ノート)進化論」として応用できるのでは?
・・・と考えて、整理した図がこちら。
今回の「読書ノート進化論」の記事は、上記の図を簡略化して書いてみました。
ここまで思考投入してノートを取っていくと、もはやノートを見返さずとも、本から得た学びを脊髄反射で使えるようになってきます。
まとめ:読書ノートのフォーマット
まとめましょう。
読書ノートは「読書を費用から資産に変えるため」に取る、という話をしてきました。
そして、読書ノートには、Lv.0~3まであることを整理してきました。
- Lv.0写経レベル:本で印象に残っていることが、そのまま書き写されている
- Lv.1要約レベルⅠ:「書かれていた問い=書き手の問い」ベースで構造化されている
- Lv.2要約レベルⅡ:筆者が置かれている「文脈」まで加味できている
- Lv.3読書ノートレベル:「想定していた問い(=読み手の問い)」ベースで構造化されている
これらの点をノートにまとめていくフォーマットを最後にご紹介しましょう。
次のフレームで読書ノートにまとめておくと、資産として取り回しがしやすくなります。
よろしければ、ご活用ください。